人間の顔が見える「シラス」 始動1年を振り返る

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ゲンロンα 2021年12月28日配信
本稿は、2021年11月11日に、桂大介さん(シラスCTO)と東浩紀に対してゲンロンカフェで行われたインタビューをまとめたものです。インタビューを実施した媒体での掲載が見送られることになったため、ゲンロンαで公開いたします。

シラスの設計に反映されていた「コミュニティの理想」
── そもそも、シラスという動画配信サービスはどのような経緯で立ち上がったのでしょうか。 東浩紀(以下、東) シラスのような動画プラットフォームが必要だとは、5年くらい前から考えていたんです。 動機は非常にシンプルで、「自社配信プラットフォームを持っていたら自由な言論活動ができる」くらいのものでした。 僕たちは長く、ずっとニコニコ動画(ニコ生)を中心に動画配信をしてきました。しかし2010年代半ば頃から、言論や文化系の番組を配信する公式チャンネル「ニコ論壇」がなくなったり、「ニコニコ超会議」でも討論ブースが縮小していったりと、言論コンテンツに対するニコニコ動画の方向性が変わってきたように感じました。 大きかったのは「在特会(在日特権を許さない市民の会)問題」[]でした。もちろん、ヘイトスピーチを肯定するわけではありません。けれどあの問題が起こったとき、例えば「政府批判をするチャンネルは困る」など、自分たちのチャンネルもプラットフォームの一存で消されてしまう可能性があると感じました。 そしてこれからこういう流れは加速するだろうと直感的に思ったんです。 ── プラットフォームに頼らない「言論の自由のある場づくり」がシラス構想のきっかけだったのですね。  絵を描きたい人にはPixivがあったり、綺麗な写真を投稿したい人にはインスタグラムがあったりしますが、「喋ったり、書いたり」する人を尊重するプラットフォームはほとんどないですよね。 例外はかつての「はてなダイアリー」でしょうか。文系の編集者や作家たちが集まり、面白いユーザーもついて「はてな村」と呼ばれるコミュニティを作っていました。そういう人たちをアイデンティティに据えたサービスがあればいいのに、とずっと感じていたんです。 だから今振り返ると、シラスの設計には、僕がニコニコ動画とはてなダイアリーの黎明期に見た「コミュニティの理想」がかなり反映されていると思います。 ── 動画配信を軸とした「言論人のコミュニティ作り」がシラスの本質という話は面白いです。あとでその話については深くお聞きするとして、開発マネジメントの桂大介さんが参画された経緯は。  経緯を話すと長くなるのですが、桂さんと出会ったのは、ゲンロンが主催している「チェルノブイリ・ツアー」がきっかけでした。2018年のことです。 その後交流が深まり、シラスの開発に参加してくれることになりました。さらに僕の知人のエンジニア、清水亮さんから「グルコース」という企業の紹介があり、ゲンロンと桂さんで新会社のシラスを立ち上げ、グルコースさんに開発をお願いすることになりました。2019年明け頃に開発がスタートし、2020年10月にローンチしました。 ── そうした経緯を経てローンチしたシラスですが、一年でユーザー数が2万5000人を突破という急速な成長を遂げています。手応えを感じたのはいつでしょうか。  ユーザー数はサービス開始以降、緩やかに伸び続けています。特別のきっかけがあって一気に伸びたわけではありません。 ただ時事性の高いテーマは多くの視聴者数が集まる傾向にあります。7月には、前・西村経済産業大臣が「飲食店への酒類提供禁止」発言をした当日の夜に緊急特番を放送したのですが、2000人近いユーザーが個別に購入して同時に視聴してくれました。チャンネル会員もいるし、録画でも見られるので、最終的な視聴者数はむろんもっと多くなります。 また『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』の劇場公開日当日に配信したレビュー番組(「全 世 界 最 速 シン・エヴァ・レビュー生放送! さようなら、僕たちのエヴァンゲリオン。」)も、平日午前開始の番組だったにもかかわらず、コメントが止まらなくてびっくりしました。
── 今しか見られない、時事性のあるもの、熱量のあるものが人気なのだと。

桂大介さん(以下、桂) 編集されていない、ライブ配信というのが大きいですね。シラスって、この時代にすごく求められていたなと僕は思っているんです。

「酒類提供禁止」の時、Twitter上でもさまざまな賛否の声はあがっていましたが、シラスが違うのは、5時間や6時間を使って議論すること。その過程ではコメントを巻き込みつつ、バトルのように議論がヒートアップすることもあります。だから賛否にたどり着く前の、複雑な思考過程がそのまますべて展開される。これはTwitterやYouTuberにはできません。シラスのように、みんなが混乱して疑問に思っている問題について一緒に考えられる場が今、ネットにないんだと感じました。

── シラスユーザーの特徴はありますか。

 年齢は30代が中心ですが、職業も収入も多様で一定の傾向はありません。地方に住んでいる方も多いですし、焼き鳥屋さんやうどん屋さんのような飲食店経営の方もいます。むろん出版人や大学人もいます。

シラスがおもしろいのは、そういう多様な人たちが、自分の属性についてコメントで積極的に語ってくれることです。自分はふだんこういう仕事をしているんですけど今日の話は頷けます、などと聞くと、だんだん視聴者の顔が見えてくる。

 地方に住む方で「農業をしながら聞いています」という方もいます。属性は言葉にしづらいのですが、ある種の文化とか知性に触れたい方。無料コンテンツがインターネット上に蔓延しているいま、本格的な知を手軽にスマホで聴ける場所が他にあまりないのかもしれません。

シラスは人間をありのまま流している
── 1年シラスを運営されてきて、一番印象に残っている配信を挙げるとすれば。  どれも忘れ難いですが、一つ挙げるとすれば、東京オリンピック前(5月14日)に配信した「いまこそ語ろう、ザハ・ハディド」ですね。 ザハの国立競技場案を実現するチームのトップだった、山梨知彦さんという建築家の方を招いて、今だからこそ当時の話を聞くという趣旨で話を伺いました。 当時のメディア報道としては、ザハが強引な設計をして予算が膨れ上がり、それが問題になって撤回が決まったことになっている。 けれど当事者の方から長時間話を聞くことで、全然見え方が変わるんです。 じつは撤回が発表されたとき、ザハ案はすでに細部まで詰められていて、「建築確認申請」という、数千ページの書類を行政に提出し、確認する直前まで行っていたらしいんですね。そんな時にテレビの報道でいきなり白紙撤回を知り、なにも知らされていなかった現場は呆然としていた、という実態を語っていただきました。山梨さんは100人規模のチームのトップだった方ですが、その語り口自体が、これは悔しかっただろうと思わずもらい泣きしてしまうようなものだったんです。 ザハ案をぱっと見て批判するのは簡単です。批判には妥当なものもあると思います。けれども、あたりまえの話だけど、ザハ・ハディド氏も生きている人間だし、その後ろにいる数百人のスタッフもまた生きている人間なんですよね。彼らがどれだけの情熱を注いで準備をしていたのか。それが短い記事にすると消えてしまう。こうした話を拾い上げ、あらためてザハ案の魅力に光を当てることができたのは、長時間のシラスの番組ならではだったと思っています。 ── 言論人である東さんが中心となって立ち上げた動画プラットフォームという経緯もさることながら、シラスは他の動画配信サービスと比較しても異なる点が多いと感じます。そのもっとも大きな違いはどこにあるのでしょうか。
 まず、動画の尺が長いです。今インターネット上のコンテンツはどんどん短尺化していますが、シラスの配信時間は平均3時間と驚くべき長さです。しかも、放送時間は立ち上げ時から伸び続けており、最高延長時間は9時間を超えました。

 さらに根本的な点として、シラスは全て有料で、全て生放送。シラスの番組が長時間だということは、そもそも編集しないことと関係している。感情の揺れや論理の不整合をそのまま見せる。いまのザハ番組がいい例ですが、たっぷり時間を取って当事者に話を聞くことによって、報道では汲み取れないニュースの舞台裏が浮かび上がってくることもあります。

 YouTubeは基本的に、編集をきっちり入れた上で動画をアップします。それはいわば無駄や失敗を削るということですが、シラスにはそれが全くありません。泥酔も落涙もそのまま放送される。人間をありのまま流している点で、YouTubeとは異なる体験を提供できているのだと思います。

── 「時間制課金」という仕組みも特徴的ですよね。延長60分で税込165円など、かなり細かい料金設定だと感じます。

 有料動画が目新しく見えるという現状の方がむしろおかしいですよね。トークショーやカンファレンスに代表されるように、人が喋ったものを見てお金を払うってごくごく普通のビジネスはず。

それぐらい無料コンテンツが今多くなっているということではないでしょうか。その結果、できる限りスケールして多くの視聴者を獲得して、広告をどんどん視聴させなければビジネスが成り立たないという構造が出来上がってしまった。この現状を変えたかった。

 シラスの仕組みはすごくシンプルです。当たり前ですが、情報もモノ。本を1冊送ったら送料がかかるのと同じように、1時間動画を配信したらお金がかかる。長くなればなるほど、データの転送量が増えてAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)に支払わなければならない費用が増えます。

各ユーザーからもらうお金を、テナント(番組配信者)とシラスの間で分配し、残ったお金でシラスからアマゾンに転送費用を払っても利益が出るようにする。そのように逆算して、番組料金を算出しています。

もともとゲンロンは出版社だから、本を1冊作った時、印税がいくらで、印刷がいくらで、送料がいくらで、だから3000円の本が1冊売れたらゲンロンにいくら入る、という計算が自然なんですね。その感覚で動画プラットフォームをつくりたかった。そうすれば、ユーザー数が少なくてもバランスする、スケールの必要ないサービス形態になるはずだと思ったんです。

じっさい、YouTuberとして生活するためには大量の人に動画を見てもらう必要がありますが、シラスなら視聴者数が数百人でも十分な報酬が得られます。そういうテナントさんが現れています。

 この仕組みを実現できたのは、今の技術的環境があったからです。昔だったらサーバーなどのハードウェア投資が最初に必要だったので、回収するためには結局規模が必要でした。しかし今回はクラウドを活用することで、ほとんど初期投資が発生していません。

そうした点を含めて、2020年はシラスが生まれる奇跡的なタイミングでした。シラスのサービス形態が受け入れられ、しかも技術面でもそれが実現可能だった。あと2年早ければ無理だったろうなと思います。

「トークショー」の本質はコミュニケーションにある
── 先ほど、シラスには東さんがインターネット黎明期に見た、コミュニティの理想が反映されているという話がありました。どういうことでしょうか。   僕自身も運営するなかでわかってきたことなのですが、じつはシラスは本質的には「動画コンテンツ」を提供するプラットフォームではないんだと思うんです。大きな話をすれば、シラスはコミュニティを形成するための新たなタイプの社会運動だと思っています。 僕は評論家の仕事をしていたのでそういうことに関心があるんだと思いますが、もともとぼくは、本や映画の「トークショー」って、なんのためにあるのだろうとずっと考えていたんですね。 例えば小説家が本を出版した時にするトークショー。内容自体は本に書いてあるのだから、本を読めばいい。映画のトークショーだって、コンテンツはトークじゃなくて、その映画自体ですよね。 アイドルや歌手だったら、コンテンツは歌や踊りだから、歌って踊ればいい。それが商品になります。でも、小説家や映画監督が出てきてトークをする時、彼らはいったい何をしているのか。わざわざその場所へ来て話す以上、そこではなにかが商品でなきゃいけない。けれど出版社や書店は、あまりにそのことを真剣に考えていないと感じていたんです。 そして最終的に僕が到達したのは、トークショーの商品性というのは、話の内容だけではなく、作家が観客と触れ合ったり、編集者が客層を知ったり、あるいは逆にお客さんが作家や編集者さんを知ったり、また互いに知り合ったりといったコミュニケーションにあるはずだという結論でした。 ── トークショーの本質は、その話の内容(コンテンツ)よりもむしろ、観客と触れ合うこと(コミュニケーション)にあると。  そうです。そしてまず、ゲンロンカフェを2013年にオープンしました。コミュニケーションそのものを商品にするということをゲンロンカフェはずっとやっていて、その延長線上にシラスがあると思うんです。 だから、ぶっちゃけていえば、シラスは、「情報に満ちた役立つ話をコンパクトにプレゼンする」というのはぜんぜん向かないんですね。そもそも僕は、コンパクトに情報を得たいのなら、そもそも動画なんて読まずに本を読めばいいと思う。むしろ、シラスでやっているのは、普通に講義したら15分で済むことを、視聴者からの質問に答えている間に脱線して1時間、2時間になってしまう、そういう経験を与えるということなんです。 そういういっけん無駄にみえるコミュニケーションによって、ユーザーは配信者のことをより深く理解するし、また配信者も自分の客層をつかんでいく。そうしてコミュニティが作られていく。そういう経験に価値を見出すひとが、シラスにお金を払ってくれているんだと思います。 ── ユーザー一人ひとりを具体的に意識してコミュニケーションすることは、番組配信者(登壇者)にとってもメリットがあるのでしょうか。
 そうですね。現実の顔でなくてもいいのですが、広義の「顔」が見えない関係性はやっぱりサステナブルではないと思います。ファンとの交流がなければ配信者は寂しさを感じますし、またファンのなかに多様性がないとこちらの引き出しも少なくなっていきます。顔が見えるということは、ファンの多様性が見えるということなんですよね。

いまはユーザーを数に還元して分析する技術ばかりが発達していますが、そんななか顔の見えるファンが100人いることの価値は計り知れないものだと考えています。ユーザーとの等身大の会話によって自分を応援してくれる人を増やし、独自のコミュニティを築いていけるのが、シラスの動画配信者の最大のメリットですね。

 ユーザーの顔が見える、というのは東さんの強いこだわりでもありますよね。コメントやレビューにユーザー名が明記されているだけでなく、そのユーザーのレビュー一覧まで見れるようになっている。ユーザーの個性が際立つ設計にしているのをつよく感じます。

 あの機能は、たぶんはてなダイアリーでの経験から着想を得ています。たぶんというのは、僕自身もつけるまで自覚していなかったのですが、はてなでは、各ブログにコメントがいっぱいついているだけでなく、そのコメントの名前をクリックするとそのひとのブログが読めて、その人がどういう人かわかるようになっていた。その経験がネット初期の理想的なコミュニティの形として僕の中にあって、それが出てきたんだと思います。

── しかしユーザーとのコミュニケーションを大切にしすぎると、ファンとの馴れ合いになってしまう可能性もありませんか。閉じたコミュニティで差別的な思想が生まれたり拡散する事例はよくあります。

 まさにそこが大きな課題で、それを防ぐために、シラスでは、テナントが意図的に設定しないかぎり、基本的にすべての動画の録画を残し、単体購入ができるようにしています。そうすることで、配信者の閉じたコミュニティの中に入ってしまうのが嫌なひとでも、関心があれば動画ごとに視聴することができるようになっている。この機能があるので、シラスでは、配信者とユーザーの関係は、いわゆるオンラインサロンよりもはるかに「ゆるい」ものになっています。

逆に言えば、配信者の側も、いつ自分の番組を「信者ではないひと」が見るかわからないので、話に緊張感が出てきます。むろん、配信者にとってもっとも重要なのは継続的に応援してくれる人たちですが、シラスはそれ以外のひとも大事にしなければダメなシステムになっている。開放性と閉鎖性のバランスを大切にしたいということですね。

シラスのこれから
── 当初シラスの構想のきっかけとして、プラットフォームに依存しない自由な言論の場所が欲しかったという話がありました。しかし表現の自由とヘイトスピーチの問題は表裏一体で、近年はプラットフォームによる規制を求める声も高まっています。今シラスは多くの配信者を抱えるプラットフォームとしての側面もあると思いますが、このジレンマをどう考えていますか。  まず、ヘイトスピーチについてはうちは明確に反対です。そうしたチャンネルが現れたら即座にBANすることになると思います。性的な表現もけっして自由ではありません。社会常識と照らし、テナントと相談することになります。 ただ、そういった方向性をもちつつも、多くの場合は個別の事例を見て対処していきたいと思っています。ヘイトと通報があったからアウトという対応は取らず、周りのコンテクスト(文脈)をきっちり見て対応したい。 またそもそも、シラスは長時間の動画視聴が前提なので、一部の言葉だけを取り上げて攻撃することがしにくいサービスになっているとは思います。  シラスがゆっくり成長していくことが答えなのかなと思います。急激な成長が必要だから誰でもうちを利用してくださいとなると、無法地帯にならざるを得ません。そうすれば運営も機械的な対応に走るしかなくなっていきます。 今シラスは、チャンネル開設希望者は基本的に全員ビデオ面談をして、シラスがどういうサービスで何を目指しているかを丁寧に説明しています。 もちろん番組の内容はテナントにお任せしますが、シラスの世界観をしっかり理解してから入ってもらうようにしています。事が起きたらBANすることはあるかもしれないけれども、それ以前にBANが起きないことを目指すのが大切です。 ── ユーザー側の、誹謗中傷や炎上が起きないような仕組みづくりはどうされていますか。  NGユーザーの設定はありますが、ほとんど使われていません。むしろそこもみなさん人間力で対応していますね。シラスでは配信者が常にコメントを見ていますから、変な発言があると配信者本人が「やめてほしい」と伝えたりする。 結局、投稿しているのも人間なので、話しかけるとうまく収まる場合が多いのです。結果として対応コストも安くなる。それでも問題が起こる可能性はありますが、他のサービスに比べると炎上や誹謗中傷は少ないと思います。 ── チャンネル配信者について、選別の基準などはあるのでしょうか。これから、どんな方に配信者として参加してもらいたいですか。  基準は、明確に決めているわけではありませんし、このジャンルを増やしたい!というのも実はあまりないんです。 基本はお問い合わせをもとに考えていて、例えば現在チャンネルを持っている方には「ケーナ奏者」とか「パフェ評論家」の方もいらっしゃいますが、最初は僕らもよくわからなかった。 けれどとりあえず一回話してみる、それで「こういうのも全然ありなんだ」とこちらの認識が変わったこともあります。ですから、間口は広くとっていますね。いま僕らが想像していないようなチャンネルが入ってきてほしい。一方で「シラスっぽさ」みたいなものもやっぱり大切にしています。
── 「シラスっぽさ」とは。


 単に視聴者を増やしたい、お金儲けをしたいという方には向かないと思います。自分を支援してくれる人としっかりコミュニケーションを取りたい、サステナブルなコミュニティを作りたいと思っている人に使っていただきたいですね。

また、シラスはさきほど述べたように、単に知的な経験を効率よく提供するサービスでもない。だから、例えば大学の講義を配信するようなイメージの方も合わないと思います。

── 東さんの哲学の中心である「誤配」の概念も関係していますか。

 むろんです。シラスの特徴である長時間のライブ配信は、大量の「誤配」を生む仕組みでもあります。

何か特定の情報を知りたい人にとっては、シラスの動画は「無駄な話」ばかりでしょう。でも本当に価値のあるコミュニティを作るとき、じつはそうした「誤配」の塊は非常に有効に機能すると思います。

── シラスを今後どのように発展させていきたいですか。

 先ほどもいったように「伸ばしすぎない」ことですね。来年の目標は100チャンネルですが、今の時点で25チャンネルくらいです。それ以上の巨大プラットフォームというのは現段階では考えていません。そこまで行ったら次の姿は見えてくるかもしれませんが、どんどんスケールさせていこうとは思っていません。

── 100チャンネルというと少ない感じがしてしまいます。

 小さく聞こえるかもしれませんが、100チャンネルということは100コミュニティということです。それってすごいことだと思います。むしろ僕からすると、いま1万とか10万とかいう単位で配信者がいるのが当然という感覚になっていることに、文化産業全体の歪みを感じます。コミュニティがなく、配信者だけ増えても意味がないと思います。

── 機能面では、どんな新しい機能の構想があるのでしょうか。

 1年以内にリアルタイムの字幕生成機能をつけようと思っています。その後は字幕の内容を検索する機能や、字幕を自動翻訳する機能を考えています。

将来的には、外国人の方にもシラスを見てほしいと思っているんです。

自動翻訳の精度が向上し、言語の壁が完全に取り払われたとき、今SNS上で起きている言い合いが、グローバルで展開することになります。

その時に日本人の考えが等身大で発信されている場所があれば、日本人に対する理解を深めてもらうことができるはず。無用な衝突を減らせる役割も果たせると思っています。

── 巨大プラットフォームがますますグローバルに言論環境を支配していく中、シラスの存在の重要性は高まっていくのでしょうか。

 そのはずです。今後プラットフォームがグローバルになればなるほど、プラットフォームでの発信内容に対する規制は厳しくなるでしょう。すると、そこでは世界中の人が納得する、「政治的に正しい」けれど無味乾燥で血の通っていないメッセージしか流せなくなります。

そんな時代が来たときに、シラスは「グローバルな規制に収まらない、人間の姿に触れられるプラットフォーム」として存在していたいと思いますね。


2014年12月、ヘイトスピーチを繰り返していた市民団体「在特会」がニコニコ動画で「在特会公式チャンネル」を開設し、批判を呼んだ問題。2015年5月、ドワンゴは規約違反を理由に同チャンネルを閉鎖した。
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