歴代「人文的大賞」受賞作、総振り返り!

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webゲンロン 2022年12月5日配信 
2023年12月4日更新

 2023年12月29日、今年もあの「『人文的、あまりに人文的』な人文書めった斬り!」イベントがやってくる。人文書を知り尽くした登壇者3人が、その年に刊行された膨大な人文書を振り返る、いわば人文系読者たちの「大忘年会」だ。イベントの最後には、そのなかからとくに優れた著作(あるいは著者)に「人文的大賞」が贈られる。登壇と選考を務めるのはライター・編集者の斎藤哲也、文筆家・ゲーム作家の山本貴光、文筆家・編集者の吉川浩満の3人。2016年に始まったこのイベントは、今年で8回目を数える。毎回、3人あわせて数百冊から1000冊超にまでおよぶリスト(!)よりさまざまな書籍が紹介される、とにかく人文的なイベントである。 

 そんな人文大忘年会にそなえて、以下では過去7年の受賞作すべてのかんたんな振り返りをお届けする。(編集部) 


2021年のイベントの様子
  

人文的大賞とは


 登壇者の3人は、もともと本家(?)紀伊国屋書店の「じんぶん大賞2016」のプレイベントに登壇していた。場所をゲンロンカフェに移して「とにかく人文書について語り尽くす」イベントを開催するにあたり、本家の「じんぶん大賞」、そして山本、吉川の『人文的、あまりに人文的』(当時『ゲンロンβ』での連載、のちに本の雑誌社より書籍化)になぞらえて、「人文的大賞」を贈ることになった。ちなみに受賞者に金品の授与などはいっさいない。大賞の栄誉だけが贈られる。 

2016年 

青山拓央『幸福はなぜ哲学の問題になるのか』(太田出版) 
荒木優太『これからのエリック・ホッファーのために 在野研究者の生と心得』(東京書籍) 
互盛央『日本国民であるために 民主主義を考える四つの問い』(新潮社) 
(五十音順、以下も同じ) 
※人文書リスト総数:476冊(斎藤:94冊、吉川:105冊、山本:277冊)

 記念すべき第1回。イベントではその年に刊行された人文書のなかから、登壇者がそれぞれ読んだ(あるいは気になった)本をピックアップした「人文書リスト」、およびそのうち20冊をセレクトした「人文書トップ20リスト」を持ち寄る。この年は476冊のうち、3人全員がトップ20にリストアップした3作(の著者)が選ばれた。賞を贈ることについて3人はやや気恥ずかしそうで、「勝手に贈るので、できれば受け取ってほしい」とのことだった。

2017年

読書猿『問題解決大全』、『アイデア大全』(フォレスト出版) 
※人文書リスト総数:692冊(斎藤:175冊、吉川:262、山本:255冊)

 複数の受賞者が出た前年とは打って変わって、『問題解決大全』、『アイデア大全』(いずれもフォレスト出版)を上梓した読書猿が単独の受賞。『アイデア大全』の9刷の帯には、この「人文的大賞2017受賞」の旨が記されている。

2018年

三宅陽一郎『人工知能のための哲学塾 東洋哲学篇』(ビー・エヌ・エヌ新社) 
※人文書リスト総数:597冊(斎藤:222冊、吉川:152冊、山本:223冊)

 2018年は『人工知能のための哲学塾 東洋哲学篇』を刊行した三宅陽一郎が単独で受賞。2016年に出版された同シリーズ第1作『人工知能のための哲学塾』(ビー・エヌ・エヌ新社)もあわせて評価したうえでの受賞だった。のちに本賞の受賞を記念して、BNN編集部のnoteにて本書の第1章が無料公開された。

2019年

稲葉振一郎『社会学入門・中級編』(有斐閣) 
銀河帝国は必要か?──ロボットと人類の未来』(筑摩書房) 
AI時代の労働の哲学』(講談社) 

古田徹也『ウィトゲンシュタイン 論理哲学論考』(KADOKAWA) 
不道徳的倫理学講義 人生にとって運とは何か』(筑摩書房) 
※人文書リスト総数:1071冊(斎藤:208冊、吉川:439冊、山本:424冊)

 この年は古田徹也、稲葉振一郎の2人が受賞。両氏とも複数の著作が挙げられているが、本格的な学術書から教科書的な入門書まで、人文知を広く伝える試みが評価された。またこの年から人文書リストが突然肥大化し、なんと1000冊を超えた。その後もリストは膨張をつづけ、昨年にいたるまでおさまる気配はない。

2020年

著作部門:全卓樹『銀河の片隅で科学夜話』(朝日出版社) 
著者部門:ドミニク・チェン『未来をつくる言葉』(新潮社) 
※人文書リスト総数:1189冊(斎藤:291冊、吉川:477冊、山本:421冊)

 この年から、それまであいまいだった「著作部門」と「著者部門」が分離。著作部門では全卓樹『銀河の片隅で科学夜話』(朝日出版社)、著者部門ではドミニク・チェンが受賞した。この翌年には受賞した全と、賞を贈った山本、吉川によるイベントがゲンロンカフェで開催されている。

2021年

著作部門:三中信宏『読む・打つ・書く』(東京大学出版会) 
著者部門:川添愛『ふだん使いの言語学 「ことばの基礎力」を鍛えるヒント』(新潮社) 
言語学バーリ・トゥード Round 1 AIは「絶対に押すなよ」を理解できるか』(東京大学出版会) 
※人文書リスト総数:1298冊(斎藤:375冊、山本:297冊、吉川:626冊)

 2021年は、著作部門に三中信宏『読む・打つ・書く』(東京大学出版会)、著者部門に川添愛が選出された。2022年9月には、2019年に受賞した古田徹也に、川添、山本を加えた3人によるイベント開催されている。

2022年

著作部門:アダム・タカハシ『哲学者たちの天球』(名古屋大学出版会) 
著者部門:沖田瑞穂、児玉聡、平尾昌宏 
※人文書リスト総数:1266冊(斎藤:403冊、山本:498冊、吉川:365冊)

 昨年は、著作部門にアダム・タカハシ『哲学者たちの天球』(名古屋大学出版会)、著者部門には過去最多となる沖田瑞穂、児玉聡、平尾昌宏の三氏が選出された。タカハシは今年10月に山内志朗、檜垣立哉とともにゲンロンカフェに初登壇しているので、ぜひチェックしていただきたい(山内志朗×檜垣立哉×アダム・タカハシ 司会=植田将暉「〈バロック〉から哲学を問いなおす──ヨーロッパ精神史入門」)。


 こうして受賞作を振り返るとわかるとおり、人文的大賞は人文書のイメージにありがちな「硬派な」本に贈られる賞ではない。山本は「人文という言葉はもともと『じんもん』と読む。これは自然科学を意味する天文と対になった概念で、人間、あるいはその集団である社会について考えることを、すべてひっくるめて人文学と呼ぶことができる」と語る。 

 このような広義の人文書のなかから、今年もあらたに珠玉の1冊が選ばれる。昨年に引き続き、今年も現地で観覧することが可能だ。さらにシラスで番組を視聴していただければ、3人の「人文書リスト」のデータまでダウンロードできる。ぜひそんな「あまりに人文的」な体験をしていただきたい。(江上拓) 
 

斎藤哲也×山本貴光×吉川浩満「『人文的、あまりに人文的』な、2023年人文書めった斬り!」(URL= https://genron-cafe.jp/event/20231229/

 

お知らせ

 現在シラスのゲンロン完全中継チャンネルでは、過去の「人文書めった斬り!」イベントを順次再公開中です。最新情報につきましては、ゲンロンカフェの公式サイト、ならびにSNSアカウントをご確認ください。 
 


2016 
【ゲンロンアーカイブス#6】斎藤哲也×山本貴光×吉川浩満「『人文的、あまりに人文的』な、2016年人文書めった斬り!」(URL= https://shirasu.io/t/genron/c/genron/p/20161207) 
  
2017 
【ゲンロンアーカイブス#8】斎藤哲也×山本貴光×吉川浩満「『人文的、あまりに人文的』な、2017年人文書めった斬り!」(URL= https://shirasu.io/t/genron/c/genron/p/20180105) 
  
2018 
【ゲンロンアーカイブス#9】斎藤哲也×山本貴光×吉川浩満「『人文的、あまりに人文的』な、2018年人文書めった斬り!」(URL= https://shirasu.io/t/genron/c/genron/p/20181228) 
  
2019 
【ゲンロンアーカイブス# 10】斎藤哲也×山本貴光×吉川浩満「『人文的、あまりに人文的』な、2019年人文書めった斬り!」(URL= https://shirasu.io/t/genron/c/genron/p/20191216) 
  
2020 
斎藤哲也×山本貴光×吉川浩満「『人文的、あまりに人文的』な、2020年人文書めった斬り!」(URL= https://shirasu.io/t/genron/c/genron/p/20201223) 
  
2021 
斎藤哲也×山本貴光×吉川浩満「『人文的、あまりに人文的』な、2021年人文書めった斬り!──五反田に集まれ! 帰ってきた人文忘年会!」(URL= https://shirasu.io/t/genron/c/genron/p/20211228a) 

2022
斎藤哲也×山本貴光×吉川浩満「『人文的、あまりに人文的』な、2022年人文書めった斬り!──五反田に集まれ! 帰ってきた人文忘年会!」(URL= https://shirasu.io/t/genron/c/genron/p/20221226) 

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