超天晴!福島旅行 ゲンロンカフェ版(前篇)|高間響

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初出:2015年6月12日刊行『ゲンロン観光通信 #1』
後篇はこちら
 
「超天晴! 福島旅行~福島第一原発舞台化計画黎明編」は、私が主宰する劇団「笑の内閣」が、第19回公演として2014年10月に京都アトリエ劇研、12月にこまばアゴラ劇場で上演した作品である。この脚本は、去る3月18日にゲンロンカフェで上演する機会をいただき、それに合わせ上演時間を30分に短縮するために、シーンと登場人物を大幅にカットし、起承転結がつくようにしたバージョンである。

 我々、笑の内閣は2005年に京都で旗揚げした。犬畜生と呼ばれても笑いをとれをモットーに、実寸大のリングを組み役者が実際にプロレスをするプロレス芝居と、様々な社会問題を扱った時事ネタコメディの二本柱の作風を持つ。特に、時事ネタコメディでは漫画アニメの規制問題、風営法のダンス規制問題、ネット右翼の問題等を取り上げ、永田町で公演をしたり、多くの学者、政治家をアフタートークに呼ぶ等、いわゆる売れない小劇団の中ではかなり異質な活動をしているという評価を受けている。

 

2015年3月18日のゲンロンカフェでの上演後、東浩紀とのトークショーが行われた
 
「超天晴! 福島旅行」は、ゲンロンの『福島第一原発観光地化計画』から着想を得た作品である。私は、もともとうちの劇団の客演にいわき出身の役者がいた関係上、震災後何度かいわきを訪問する機会があったのだが、復興の為に役に立とうという崇高な目的ではなく、物見遊山的に出かけている事に後ろめたさも感じていた。しかし、観光地化計画を知って、被災地を観光するという考え方を認識した事で、観光地化計画を舞台化することにより、我々が持っている地元京都の観劇層に、その選択肢を示す事が出来るのではと考え、この作品を作った。実際に、作品を作らなければ現地に行くことはなかったであろう役者やスタッフが、現場を見て意見を出し合いながら創作が出来た事は実に有意義であった。

 この作品は、滋賀県の私立高校が修学旅行の行き先を、福島にするか否かを話し合うという、あえて「舞台上には福島を出さない作品」である。東京よりもさらに離れた、関西という距離感がある劇団だからこそ作る事が出来たものだ。今回のゲンロンカフェ公演、そしてこの掲載をきっかけに、福島や、福島へ修学旅行を考える全国各地の学校など、多くの場所で再演することが出来れば幸いである。もっともっと様々な形で、この作品を育てられる可能性を増やしていきたい。



登場人物

江田珠実 1年B組担任

山野辺雅人 1年A組担任

間久部録郎 教頭

青居邦彦 校長

猿田博士 理事長

牧村奈々 ドラマチック・ドリーム・ツーリスト社員

 





舞台は滋賀県内の私立高校の会議室

舞台上に珠実が一人座って待っている

山野辺が入って来る

 

山野辺 よ 珠実  ごめん、早く来てもらって 山野辺 何? 話って 珠実  いや、会議前に話しておきたいことがあって…… 山野辺 え? なに? 真剣な会議だと思った? 大丈夫大丈夫、すぐ終わる会議だから 珠実  いやそうじゃなくて。教頭先生…… 山野辺 きょうと……!? いや、お前それを俺に聞くのはまずいっていうか…… いや俺はいいんだけど…… 珠実  え、どういうこと 山野辺 あ、いや、あの
珠実  教頭先生の立場、今ちょっと危ういのはわかってるよね

山野辺 それは

珠実  いや、うちの学校、今あんまり雰囲気よくないじゃん

山野辺 ああ

珠実  やっぱりさ、教頭先生外様で管理職に抜擢されたから、OB派の先生方から疎まれてるから

山野辺 確かにな

珠実  校長なんか露骨に排除しようとしてるじゃない

山野辺 それで、俺にどうしろって

珠実  今日の、修学旅行の行き先決め、どうするつもり?

山野辺 どうするつもりって、いつも通り校長が北海道提案して終わりだろ
珠実  でもさ、北海道ってはっきりいってどう?

山野辺 どうって

珠実  一泊札幌で自主研修する以外は全部スキーで、すごい不評じゃん

山野辺 まあな

珠実  だからさ、外様側で魅力的な提案すれば志願者も増えるし、理事長もこっちを支持すると思うの

山野辺 なるほどな

珠実  だからさ、こっちに賛成してほしいんだ

山野辺 いや、でもさ

珠実  え、山野辺先生も外様じゃないですか

山野辺 そうだけど

珠実  このままOBに牛耳られてていいんですか

山野辺 いや、よくはないと思うけど、まず行き先がさ

 





間久部入って来る

 

間久部 おー、おー、山野辺先生 山野辺 教頭先生 間久部 あ、聞いた? 山野辺 ま、まあ 間久部 どう? 山野辺 ええとですね 珠実  ばっちりです 山野辺 ちょ 間久部 そうかそうか、ありがとう 山野辺 いやあの 間久部 珠実、ありがとうな

 





間久部 珠実をなでなでする

 

珠実  うん 間久部 よろしく頼むよ 山野辺 はい

 

間久部座る

 

珠実  と、いうわけでよろしくお願いしますね 山野辺 うん、まあでも  珠実  なにグズグズいってんの 山野辺 いや、だからさ 珠実  え、なに、やいてんの 山野辺 どういうことだよ 珠実  だって 山野辺 あのな、一応俺の方からふったんだから未練などない 珠実  ならいいけど
山野辺 ていうか、本当につき合ってんのか

珠実  うーん、まあ

山野辺 え、どういうこと

珠実  まあ、大人だしはっきり口にはださないけどさ

山野辺 それ大丈夫なのかよ

珠実  そりゃ年は20以上離れてるけど

山野辺 いや、年の差はいいけどバツ3だろ

珠実  そうだけど

山野辺 そうとうろくでもない限り3回も離婚しないって

珠実  なにそれ、3回とも相手がロクでもなかったかもしれないじゃん

山野辺 そうだった場合、見る目がないかロクでもない女が好きってことになるからね

珠実  それじゃ私がロクでもないってことになるじゃん

 





青居入って来る

 

青居  おや、教頭先生、集まって何を 間久部 いえいえ特に何も 珠実  校長先生こそどうしたんですか? 会議はまだ1時間先のはずですが 青居  会議前に奇麗に掃除をしておこうと思いましてね 間久部 それは立派な心がけだ 青居  ええ、なにせ愛する大事な母校ですから、校舎も常に奇麗にしておきたいもので 珠実  お手伝いしますよ 青居  ああ、けっこうけっこう外様の方は手伝わなくても 珠実  そういうわけには 青居  いや受けて来た掃除教育の違いでしょうな。根本的にここまで掃除すればOKてラインが違うんですよ。教室を見ても、OBが担任のクラスと外様のクラスじゃ違いますからな

 





猿田入る

 

猿田  やあ、みんなおはよう

 

ティッシュを机におく

 

青居  ちょっと、理事長。ゴミはゴミ箱に捨ててくださいよ 猿田  ゴミじゃないよ、これみなさい。ここの部分はまだ使ってないからまだかめるだろう。あー、よかったらいる? 青居  いらないですよ。汚いな 間久部 しかし、理事長も早いですね 猿田  うん。今日19時からみたいテレビがあるから、早く終わらそうと思って 青居  またそんな子供みたいな理由で
猿田  いやだってめっちゃ面白いんやで。お見合い大作戦やで。嫁不足のクッソみたいな田舎に、婚活女が大量に行って1泊2日でお見合いすんねんけど、いくら田舎でもイケメンなら結婚出来るからしょうもない男ばっかりやねん。で、応募して来る女もしょうもないのばっかりで、もうブスと不細工が妥協しあってんのが面白うて面白うて

間久部 理事長、そんな言うてあげないでください

猿田  まあ、そういうことだし、今からはじめてもええ?

青居  私は構いませんが、間久部先生は

間久部 いいでしょう

珠実  いいんですか? 山野辺先生に先に行き先伝えなくても

間久部 まあ、いいだろう

猿田  では、本日は来年度の修学旅行の行き先を決めたいと思います。どなたか提案がある方は? 

青居  では、私が

猿田  では、校長先生どうぞ

青居  ええ、私はここ10年続いた冬の北海道でのスキー体験は生徒たちにとって代え難い体験だと思っております。そこで、北海道占冠村のトマムリゾートの継続を提案します

猿田  なるほど、では他にはいらっしゃいますか

間久部 ……はい
猿田  どうしました間久部先生

間久部 どうしたもなにも意見を出そうと

青居  だ、出すんですか?

間久部 はい

猿田  では、どうぞ

間久部 ええ、確かに長年の北海道旅行も成果を上げておりました。しかし、行程中ずっとスキーの日程では学習効果が高いとは言えないのが難点だったと思います

青居  ……(にらむ)

間久部 そこで私は、別な場所を提案致します

猿田  どこでしょう?

間久部 福島です

青居  ふ、福島?

間久部 はい

青居  なにを言ってるんですか間久部先生

間久部 なにをとは?

青居  冗談はよしてくださいよ

間久部 我々は真面目に福島を提案しています

青居  じゃあ聞くが福島に行く事が、なんの学習効果があるって言うんですか
間久部 では江田先生の方から

珠実  はい

猿田  ではどうぞ

珠実  はい、東日本大震災、福島第一原発の事故は、日本いや世界の歴史に残る出来事だと思います

猿田  そらそうですね

珠実  それを受けて、原発について復興について、様々な立場から様々な意見があります。しかし、それが本当に福島のため、日本のためになる議論でしょうか?

猿田  それは?

珠実  現場を見ずに、あーだこーだいっても机上の空論であるということです

猿田  なるほど

珠実  私は、原発事故があった福島の浜通りの出身で私の実家は、居住制限区域といって、日中入れはするんですけどまだ住めないところなんです

猿田  そうなんだ

珠実  震災の後、何度か荷物は取りに行きました。それでやっぱりこっちに住んでるんじゃ、わからない。感じる事がたくさんあったんです。現場で、生で見るからこそわかるものがあるんです

青居  ……

珠実  だから、高校生という一番感受性が豊かな段階で福島に来てほしいんです。具体的になにが出来るわけではなくてもその経験を積んでいくというのは、重要な事ではないでしょうか?

猿田  なるほど
珠実  それを受け、私はGW中に帰省して、地元の友人にガイドをお願いしました

猿田  地元の友人に?

珠実  はい、やはりこういうのは地元の人の声を聞いた方がよいとのことなので

猿田  なるほどわかりました。じゃあ、どうしましょうかね

青居  理事長はどうなんですか

猿田  私が?

青居  ええ、ビシっと言ってください

猿田  そうだな。まあ、私はどっちでもいいけど

青居  どっちでもいいてどういうことですか

猿田  早く決まる方にしてくれたら

青居  いい加減すぎるでしょう

猿田  早く帰ってお見合い大作戦みたいんだよ

青居  じゃあ、録画してきてくださいよ
猿田  まあ、じゃああれだ。山野辺先生に聞いてみるのはどうかな

青居  ちょっと

猿田  山野辺先生、どうぞ

山野辺 はい、私は

青居  私は?

山野辺 私は?

間久部 私は?

山野辺 福島には反対です

間久部 なんだと?

山野辺 福島に修学旅行なんてありえません!

珠実  なんで

山野辺 当たり前だろ。福島の事、馬鹿にしてんのか!

 





「恋の浜通り」の前奏がなる

間久部 マイクを持つ

間久部 珠実 以外の登場人物は退場する

 

間久部 立ち入れぬ、故郷思い3年目、心を込めて歌います。切ない思い、歌います。江田珠実で「恋の浜通り」

 

間久部、珠実にマイクを渡し退場 珠実、深々と礼をして、歌いだす

 

「恋の浜通り」  作詞作曲 高間響

         編曲 浅見典子

 

 上野発のスーパーひたちおりた時から いわき駅前はラトブだけが佇んでいて  その先、帰ろうにも帰れない 私の家はゲートの向こうです  さようならと書いた手紙置いて来たけど   本当は追いかけて来てほしいと思っています  けれどあなたはきっと来ないはず そんな価値ないつまらぬ女です  私はひとりレンタカーにのり 野生化した家畜 みつめて泣いていました  復興進まぬ海岸と 目に見えぬ放射能が あなたの身も心も 遠ざけるわ  鼻血でなくても 涙止まらぬ 秋の浜通り

 

珠実 深々と礼をする

 

(後篇につづく)

 



2014年の京都での初演より
 


 



【公演情報】

高間響さんが作・演出を手掛ける、笑の内閣第29次公演『マクラ DE リア王』が上演中です。

日時:
7月22日(木・祝) 19時
7月23日(金・祝) 13時/19時
7月24日(土) 13時/19時
7月25日(日) 11時/16時
7月26日(月) 13時

会場:
THEATRE E9 KYOTO
〒601-8013 京都市南区東九条南河原町9-1
https://askyoto.or.jp/e9

チケット:
[自由席/日時指定/税込]
一般 早割:2,500円/前売:3,300円/当日:3,500円
U25 早割:2,000円/前売:2,800円/当日:3,000円
高校生:500円
配信:1,980円

※早割チケットは、6月10日(木)〜7月8日(木)までの期間限定で販売。
※前売チケットは、7月9日(金)より販売開始。
※チケットご購入後の返金はできかねます。あらかじめご了承ください。
緊急事態宣言等により、公演中止や延期の場合は、返金に代わり、配信公演のURLおよび公演パンフレットを送付いたします。
※※当公演では、当日精算はご利用いただけません。なるべく「クレジットカード決済」をお選びください。
「銀行振込」「現金書留」をご希望の場合は、 予約いただいた公演日の前日までに着金するようお支払いをお願いいたします。詳細はTHEATRE E9 KYOTOのWebサイトよりご覧ください。


[チケット取り扱い]
《来場チケット》
THEATRE E9 KYOTO
https://askyoto.or.jp/e9/ticket/20210720

《配信チケット》
笑の内閣シラスチャンネル・「マクラDEリア王」配信・購入ページ
https://shirasu.io/t/warainonaikaku/c/warainonaikaku/p/20210611184946

キャスト:
髭だるマン 由良真介 以上笑の内閣
飯坂美鶴妃 熊谷みずほ 斉藤ひかり 白石幸雄 杉田一起 中路輝(ゲキゲキ/劇団「劇団」)
野口萌花(学園座) 萬谷真之 三鬼春奈(gallop)松田裕一郎 山岡美穂

スタッフ:
作・演出:高間響
舞台監督:玉井秀和(劇団F A X)|音響:島﨑健史(ドキドキぼーいず)|照明:真田貴吉
映像撮影・配信:竹崎博人(FlatBox)|衣裳:鈴木貴子
フライヤーデザイン・写真:脇田友(スピカ)
演出助手:清水風花
制作:秋津ねを(ねをぱぁく)

問い合わせ・詳細:
[公演情報ウェブサイト]
https://warainonaikaku.wixsite.com/index/pillowdelear

高間響

劇作家、演出家。1983年北海道生まれ。小5ではじめて脚本をかき、岩見沢西高校時代に演劇を始める。佛教大学劇団紫を経て、2005年に笑の内閣を旗揚げ。芝居中にプロレスをするプロレス芝居と、時事ネタコメディを得意とする。すべての公演で脚本を執筆、多くの作品の演出を手がける。代表作に『天晴!福島旅行』、『ツレがウヨになりまして』、『非実在少女のるてちゃん』、『65歳からの風営法』、『ハムレットプロレス』など。
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