2023年4月18日[火]発行
1|【新連載】石田英敬 飛び魚と毒薬
待望の新連載! 哲学者ベルナール・スティグレールと著者の人生がクロスする〈一・五人称〉のクロス・バイオグラフィー。第1回は、戦後復興期のフランスと日本に育った、2人の少年時代をたどります。
2|東浩紀 『観光客の哲学 増補版』はじめに
今年6月に刊行予定の東浩紀『観光客の哲学 増補版』から、新たに書き下ろされた序文を先行掲載します。パンデミックと戦争によって幕を開けた2020年代にあって「観光客」を考える意義とは。
3|山森みか イスラエルの日常、ときどき非日常 第8回 第6次ネタニヤフ政権発足──揺れるイスラエルのユダヤ人社会
昨年11月の総選挙で首相の座に返り咲いたネタニヤフ。その新政権誕生は、イスラエル社会に亀裂や集団間の嫌悪をもたらしています。反政府デモや大臣の罷免……転機を迎えるイスラエル社会を、現地から捉えます。
4|さやわか 愛について──符合の現代文化論 第14回 古くて新しい、疑似家族という論点について(1)
坂口安吾の「日本文化私観」、そして「疑似家族もの」の少女漫画とテレビドラマを手がかりに、戦前の国家像とも、近代的な家族像とも異なる、新しい「現代的な家族像」を考えます。
5|河野至恩 記憶とバーチャルのベルリン 第8回 人生を通しての言語とのつきあい方
インターネットや翻訳サービス、語学学習アプリなどの登場によって勉強法が大きく変化している語学。外国語とのつきあいかたを、森鴎外や水村美苗ら、文学者のタイムラインに重ねて考えます。
6|プラープダー・ユン 訳=福冨渉 ベースメント・ムーン 第8回
バンコクのホテルで人工知能と人間の意識を混合した新しい意識「写識」に変調をきたした虚人ヤーニン。脳内にアクセスしようとしてきたのは独裁国家連合体WOWAの写識だった──。連載小説第8弾!
表紙写真:2023年3月18日に行われたゲンロン友の会第13期総会「人間復活」での1枚。今期の総会はゲンロンカフェ、イルモンドビル(旧オフィス)に加え、11年ぶりに外部会場(五反田のTOCビル)を借りて開催された。TOC会場の空間演出を手がけたアーティストデュオ・MES によるレーザーが、「人間復活」の文字をかたどる。MES は新井健と谷川果菜絵によるユニットで、新井は2018年の新芸術校第3期の金賞受賞者。レーザーと仮設資材を多用する作風が特徴で、クラブカルチャーと現代美術のあいだのマージナルな視点から作品を展開している。 撮影=諸田英明
『ゲンロンβ80+81』へのみなさまのコメントをお待ちしております。
2023年5月28日(日)までにいただいた投稿は、『ゲンロンβ』の読者プレゼントの抽選対象となります。
ぜひ、みなさまのご感想をお聞かせください!
1. 【新連載】石田英敬 飛び魚と毒薬
ベビーブームから郊外のニュータウン開発、当時の教師と優秀な生徒との関係性などにお二人の共通点が見出せると言うのは興味深い。
1.5人称で語られる同時代に重なり合う2人の、あたかも憑依し合うような関係がどう語られていくのか期待せざるを得ない。
2. 【先行掲載】東浩紀 『観光客の哲学 増補版』はじめに
フランスの哲学論文は難解な文章である事で評価が高まるらしい。そのフランス哲学表現の流れを存分に汲む日本の哲学の記述も時代とともに変化しなければならないように思う。
ゆるく考え、分断を回避することを主軸とする同書の増補版の出版と「ゲンロン」のナンバリングから外れる事で更に進化した「観光客の哲学」を心待ちにしている。
3. 山森みか イスラエルの日常、ときどき非日常 第8回 第六次ネタニヤフ政権発足──揺れるイスラエルのユダヤ人社会
左派政党が頭で考え出した理屈でもって、市井の人々が漠然と抱く伝統や歴史感覚を軽視しがちなのは日本もイスラエルも同じなのかと思うと、気の抜ける話だ。
右派政党がその間隙を縫って攻勢に転じる政治的闘争はリアリズムとして当然だと考えるが、イスラエルは日本よりも差し迫った武力紛争と厳格な宗教を抱える分、国民の不安感は想像を絶するものがあるだろう。
4. さやわか 愛について──符合の現代文化論 第14回 古くて新しい、疑似家族という論点について(1)
「逃げ恥」における企業を模した家族という異形の無機質的関係から人間の情念が生まれ、やがて「一緒にいてみる」と心の叫びに似た提案で結ばれる関係というのはあたかも昔の「お見合い」に似ていると感じた。
世間体や家を継ぐ慣習などの外的な必要性によりお見合いが行われる代わりに、相互自発的お見合いのようなストイックな関係性は発想として大変興味を惹かれる。
5. 河野至恩 記憶とバーチャルのベルリン 第8回 人生を通しての言語とのつきあい方
日本人の外国語学習の機会の多くは中学校(今は小学校?)で授業に忽然と現れる英語の時間での学習であろう。
テストや受験のために消極的に学ぶよりも自らの嗜好により学ぶほうが効果が高いのは自明だが、河野さんの文章では学習の動機にはタイミングという不確定要素も働く事に気づかされた。
これを良いタイミングと見て、英語学習アプリをダウンロードして再び過去の記憶を呼び覚ますこととする。
6. プラープダー・ユン 訳=福冨渉 ベースメント・ムーン 第8回
“本当の敵は、集合的意識や、科学や芸術を支配することそのものなんだ。”という一文には日常的に浴び続ける大量の情報や、権威付けられた芸術などに接し続けることの弊害を想起する。
誰かの考えや発言を過度に内面化し過ぎず、“自分の名前が、何音節にも満たない音”にならないように感覚を研ぎ澄まさなければ。
1|【新連載】石田英敬 飛び魚と毒薬
1.5人称。なるほどです。
スティグレールさんの人生が紐解かれるのと平行して、石田先生の身を持った歴史も紐解かれていく。
時代の雰囲気や背景も丁寧に語られ、歴史物のような感覚も抱く。
ある哲学者の一代記の始まりのようでもあるし、瑞々しい学校でのエピソードなどはまるで日記体小説のようでもある。
《世界はやっぱり同じリズムで動いていたのだ》
こうして連動したリズムを追体験できるのはとても貴重な体験ではないだろうか。今後の連載が楽しみになる第1回でした。
2|東浩紀 『観光客の哲学 増補版』はじめに
物事の境界を明確にして、硬質な言葉に磨き上げる。それらによって差異を際立たせ、本来滲んでいるグラデーションを切断していく。世界は確かにくっきりと浮かび上がるし、磨き上げられた言葉は余剰を持たずに時間を直線距離に定めていく。
けれど、グラデーションや余剰は本当の世界にはいまもある。
結果的にどんどん現実と語られる世界は乖離して行っているのではないだろうか?
東さんの言葉はそうやって乖離した世界をもう一度現実につなぎ治してくれるかも知れない。多くの人が野暮ったいと切り捨てるグラデーションや余剰から目を背けずに、その語りづらいものそのものを受け止めていく宣言ではないだろうか。
《でももっと本格的な仕事を読みたかったな》
そうした言葉達に抉られながらも、曲げずに積み重ねられる東さんの仕事をこれからも摂取していきたい。
3|山森みか イスラエルの日常、ときどき非日常 第8回 第6次ネタニヤフ政権発足──揺れるイスラエルのユダヤ人社会
今回も実際にイスラエルにいらっしゃる山森さんだからこその手記であり、とても刺激的な内容だった。一口にユダヤ教徒といっても多様な主義主張があるなんて、お恥ずかしながら想像すらしてなかった。
また追記以降の手記は生々しい臨場感もあり、イスラエルで起こりつつある大きなうねりに遠い地からながら緊張感を覚えた。
同じ時間軸、想像すらできていなかったうねりを知ることができるのは実に貴重な経験。
4|さやわか 愛について──符合の現代文化論 第14回 古くて新しい、疑似家族という論点について(1)
『逃げ恥』はテンポの良さにのせられてのどごし良く摂取してました。
摂取後は、契約という無機質な関係性に人間性が肉付けされていく過程から、虚構に満ちた回路でも交通が生まれたら人間の血が通うもんだな、と思うに留まっていました。
それが、疑似家族という系譜で紐解かれると、こんなにも奥行き深くなる!
痺れました。
角田光代の作品もあんまり意識していなかったですが、なるほど確かに異常なほど疑似家族に執着しています。
ミッシングリンクがつながる心地よさと新しい地平が広がる快感。
カルチャーは世界を豊かにしますね。
『恋せぬふたり』で提示される新しい家族像。楽しみです。まだ観ていないので次回までにまずは観てみようと思います。
5|河野至恩 記憶とバーチャルのベルリン 第8回 人生を通しての言語とのつきあい方
言語って思考やコミュニケーションの土台なわけで、これを学ぶことで思考出来る幅も変わるし、アクセスできる世界も変わる。
受動的に語学を学んでいた頃はこんな当たり前な言語の先を想像できなくて、ただの修行のように思えてしまった。
気づけば、こらえ性のない下積み料理人が皿洗いに辟易してドロップアウトするのと同じように、私も言語を勝手に雑用的ボックスに詰め込んで逃げ出していました。
そんな私もようやく多言語に親しむ意味、大切さを思い知らされ、遅まきながら錆び付いた英語を勉強し直しています。
働きながら、記銘力の衰えた脳での再学習はつらくくじけそうだったのですが、河野さんの文章により改めて着火していただけました。ありがとうございます。
また、最後に触れられたDeepLやChatGPTですが、確かにこれらの精度はめざましく進歩しているし、自分もとても助けていただいているのであれですが、結局自分の思考のことは全く助けてくれないんですよね。
自分の中に言語の世界が広がっていないと、その広がりによって思考を展開することはできないわけで、DeepLはできた思考のサポートしか今はしてくれないですね。
6|プラープダー・ユン 訳=福冨渉 ベースメント・ムーン 第8回
過去の過ちを修正して、痛みを洗い流す。
それは確かに過ちに沈む身には一縷の希望として映るのだろう。
だが、やはりそれは毎夜墓場から死体を掘り起こすことであり、それは結果的に希望が流れるはずだった器を壊すことなわけで、その先にはむしろ希望を捕まえて人質にするような怪物が待っているんだろう。
過ぎ去った過ちを受け止めずに先には進めない。
受け止めて、過ちを作った外郭装置に立ち向かって行かないといけない。
それを壊して、過去ではない希望を積み立て行かなければ…
最終回でその先に待つものが描かれるんだろうか?
外郭装置は否定してもなくならない。それを知って浸食する。
肝に銘じたい。
1.石田英敬先生の「【新連載】飛び魚と毒薬」は、毒でもあり薬でもあるとされた文字から生まれた哲学ーーベルナールの哲学の核心ーーを巡る考察で、素人の私にとっても非常に興味深い導入内容でした。才気溢れるベルナールと石田先生との共通点も彷彿とさせる両者の幼少期のエピソードを読み、この偉人たちの生き方についてもっと知りたいと強く思わされました。友の会の会員で良かったと改めて感謝しております。webゲンロン様にて楽しみな連載が増えて嬉しいです。
2.東浩紀先生の「『観光客の哲学 増補版』はじめに」では、「観光客」として「ゆるく」考え「ゆるく」つながっていくことで、見失われたものを見ようとする新視点について考えさせられました。また、ゲンロン友の会第13期総会「人間復活」での東先生と古市憲寿先生との対談を思い出しました。古市先生の「その時代その時代を一番の特等席で見ておきたい(中略)。一番良い席で観光したい。だから、『アリバイ』として小説を書きたい」との趣旨のご発言は、東先生の思想に通じるものがあると思います。哲学を初めとする思想は論争のためではなく、何よりも自分や他者の人生を充実させるために活用されるべきなのですね。本書を通じてさらに学んでいきたいです。
東先生のサイン入り本を予約申込みしたので、届くのが今からとても楽しみです。また、すでに書店にて「ゲンロン0 観光客の哲学」と「郵便的不安たちβ」と「一般意思2.0」を入手しましたので、新しいご著書の理解をより深める意味でも事前に拝読したいと思います。
3.山森みか先生の「イスラエルの日常、ときどき非日常 第8回 第6次ネタニヤフ政権発足──揺れるイスラエルのユダヤ人社会」では、イスラエルの政治動向について、ネタニヤフ首相の政治的戦略を中心に右派・中道・左派それぞれの立場の内情等を織り交ぜての考察が繰り広げられ、現在の状況を知る大変貴重な手がかりとなりました。個人的に興味深かったのは、反ネタニヤフ陣営のミハエリ労働党党首が、「ヘブライ語の単語の男女双方の性を早口で同時に言う話法」を用いたことでした。冗長さを早口で補おうとして、かえって極端すぎると人々に思われたであろうことは、丁寧すぎる日本語の言い回しにも通じる点がありそうです。小説を書く立場としても、自然な会話文を心がける上で非常に勉強になりました。イスラエルの歴史についても、本連載を通して真摯に学ばせていただきたいと思います。
4.さやわか先生の「愛について──符合の現代文化論 第14回 古くて新しい、疑似家族という論点について(1)」では、坂口安吾が自らと「家」とのギャップに不安を抱えつつも、あえて「前進すればいい」と述べたエッセイについて序盤で取り上げ、そこから「疑似家族」にテーマを広げてユニークな解釈をされています。「極限まで向き合おう」という安吾の姿勢は、「逃げ恥」の漫画やドラマといったポップカルチャーにもつながっているのだなと、興味津々で読み進めました。また、角田光代先生の対談インタビューにて、「家族制度に異を唱えたかった」から「疑似家族もの」を書いていたが、やがては考えを改めたとの内容に、考えを改めずに書き続けたらどうなるのかと個人的に強い関心を抱きました。
セクシュアルマイノリティへの観点も取り入れた考察も今後掲載されそうで、今とても楽しみにしている連載の一つです。
5.河野至恩先生の「記憶とバーチャルのベルリン 第8回 人生を通しての言語とのつきあい方」では、語学学習にも時代変遷があることを痛感させられました。個人的体験として、英検1級2次試験の面接対策での勉強方法がスピーチを作ってネイティブの講師に添削してもらい、それを何度も繰り返し発声することだったので、本連載で述べられていたハインリヒ・シュリーマンの語学勉強法がほぼ当てはまって大いに納得しました。語学学習アプリによる上達が当たり前になった時代においても、新たな言葉を知って人生を豊かにするという基本的な醍醐味は失われてほしくないと切に願っています。河野先生の聡明さがにじみ出るエッセイに、学習意欲も大変刺激されました。ありがとうございます。
6.プラープダー・ユン先生 訳=福冨渉先生の「ベースメント・ムーン 第8回」では、人工知能から人工意識が生まれるという新世代のSFに触れることができ、ゲンロンSF創作講座第7期生として大変強い影響を受けました。「理性の眠りが怪物を生む」という事実を、生身の人間ではなく「写識」のコピーである「わたし」が認識している点に、旧来のSF(それらもまた傑作揃いですが)の枠を大きく飛び越えた新鮮さを覚えました。哲学的思考も含んだストーリー展開にぐいぐいと引き込まれて、「わたし」のヤーニンへの呼びかけの段では、魂に直接呼びかけてくるような深いメッセージに純文学的な美しさが垣間見えます。ヤーニンの意識がどう変わるのか、最終回がとても気になります。
仕事等の都合で時間があまりなく、乱文となってしまい大変申し訳ございません。
ゲンロン様の今後ますますのご活躍を心よりお祈りしております。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。
東浩紀『観光客の哲学 増補版』はじめに
一人の哲学者がこれまでの仕事を振り返りながら、新しく文章を書き下ろす。その予告編にワクワクしない読者はいないだろうし、ぼくも期待を抑えられない。しかも前著を自ら古いタイプと総括し、今回はその総決算をしながら、新しい著書へとつなぐ役割もあるようだ。来月まで興奮を抑えながら待ちます。
・飛び魚と毒薬
石田さんの新連載
スティグレールと石田さんの生い立ちが並行して語られつつ、
時々哲学のエッセンスがもりこまれていて楽しく読めました
次回も早く読みたいです
・『観光客の哲学 増補版』はじめに
様々なイシューについて、互いの意見を尊重せず、友敵関係に分断され、twitter上などで罵倒しあっている状況において
この『観光客の哲学 増補版』を読めば、現状を変えるきっかけとなる1冊になると思います
東さんがまさに本稿で言われているように、『観光客の哲学』ポストモダニストとしての東浩紀が表現されたもので、
友敵関係を脱構築するべく書かれたものなんだと思います
手に取って読める日が楽しみです