■ 山本貴光×吉川浩満
【山本さんと吉川さんからの選書コメント】
人文学をテーマとして、2人で15冊を選びました。
人文といえば、哲学や思想を中心とした、なんとなく文科系の領域という印象があるかもしれません。現在の「人文」という言葉は、ヒューマニティーズという英語に対応するものです。これは、学術全体を、自然科学、社会科学とともに大きく三分する際にしばしば使われたりもしていますね。そういう意味では、大きく文科系という捉え方でもよいわけです。
他方、ここでは人文という概念を、もう少し広く捉えてみたいと思います。この言葉は、古代中国において、「天文」と対のように使われるものでもありました。つまり、天文とは、天の文(あや)を読み解く学問のこと。いまなら自然科学に重なるでしょうか。それに対して人文とは、人の文(あや)を読み解く学問です。人の営みや、人がつくりだすものを対象とするわけです。
こう考えてみると、天文という学問もまた、人が営むものの一つと見ることができます。対象がなんであれ、これまで人が認識したことの認識を探究する。こう考えるなら、天文もまた人文の対象となりえます。
それだけではありません。現在では、神経科学や認知科学、あるいは遺伝子工学のような人間を対象とする領域、人工知能や量子コンピュータや暗号化技術などのような数理や工学の領域など、科学や技術を抜きにしては私たちの生活や社会は成り立たなくなっています。言い換えれば、人文を理解するうえでも天文を無視することはできない状況にあるといってよいでしょう。
そんなわけで、ここでは天文を踏まえた人文という観点から、視野に入れておきたい本を選んでみました。散策の手がかりになれば幸いです。
1971年生まれ。文筆家・ゲーム作家。コーエーでのゲーム制作を経てフリーランス。著書に『投壜通信』(本の雑誌社)、『文学問題(F+f)+』(幻戯書房)、『「百学連環」を読む』(三省堂)、『文体の科学』(新潮社)、『世界が変わるプログラム入門』(ちくまプリマー新書)、『高校生のためのゲームで考える人工知能』(三宅陽一郎との共著、ちくまプリマー新書)、『脳がわかれば心がわかるか』(吉川浩満との共著、太田出版)、『サイエンス・ブック・トラベル』(編著、河出書房新社)など。翻訳にジョン・サール『MiND――心の哲学』(吉川と共訳、ちくま学芸文庫)、サレン&ジマーマン『ルールズ・オブ・プレイ』(ソフトバンククリエイティブ。ニューゲームズオーダーより再刊予定)など。
1972年生まれ。文筆業。国書刊行会、ヤフーを経て、現職。関心領域は哲学・科学・芸術、犬・猫・鳥、卓球、ロック、単車、デジタルガジェットなど。著書に『理不尽な進化』(朝日出版社)、『人間の解剖はサルの解剖のための鍵である』(河出書房新社)、共著に『脳がわかれば心がわかるか』(太田出版)、『その悩み、エピクテトスなら、こう言うね。』(筑摩書房)など。近刊に「ゲンロンβ」の連載を書籍化した山本貴光との共著『人文的、あまりに人文的』(本の雑誌社)。