「ゲンロンα」ではその選書リストを特別に公開。また著書ふたりに選書への推薦コメントを寄せていただきました。以下にお届けするのは辻田真佐憲さんによる選書&コメントです。オルテガ・イ・ガセットから『日本の酒』まで──『新プロパガンダ論』の多用な楽しみ方が提示されています。
これらの書籍はゲンロンカフェに配架している「ゲンロンカフェ選書」にも追加予定。ほかの選書者によるリストはこちらからご覧いただけます。
■ 辻田真佐憲
【辻田真佐憲による選書コメント】
『新プロパガンダ論』は、反時代的な本である。ハッシュタグ運動や専門主義が謳歌される時代にあって、個々の政治的なイシューを扱いながら、それと同時に、世の中で受け入れられているさまざまな価値観に疑問を挟み、この世界や社会について総合的に語ろうとする試みだからである。
『道徳の系譜』や『大衆の反逆』を選書した理由もこれと無関係ではない。筆者は、当然のように振りかざされる正義への懐疑を前者に、総合知を毀損して凱歌をあげる専門家への懐疑を後者に学んだ。この2冊との出会いは、高校生のときだった。新しい歴史教科書をつくる会の運動に興味をもち、その主要な論客であった西尾幹二と西部邁の著作を読むなかで、偶然(でもないが)たどりついたのだ。
知識はどこでどうつながるかわからない。だからこそ読者には選り好みせず、さまざまな分野を横断してもらいたい。『新プロパガンダ論』でも話題になった天皇制については、アカデミズムとジャーナリズムを横断する原武史の『平成の終焉』が最良の入門書。天皇の生の声が聞ける一次資料としては、『昭和天皇 最後の侍従日記』が新書で手に取りやすい。また『日本の酒』も、関係ないように見えて、近代日本の産業振興や戦争が重要なファクターとして登場する。
もう少しプロパガンダに近いところでは、『陰謀史観』と『白人ナショナリズム』があげられよう。歴史修正主義にせよ、Qアノンにせよ、トンデモ史観や陰謀論の構造はそれほど複雑ではない。その概略を知っておけば、仮に目の前に新出のものがあらわれても「ああ、あのパターンか」と冷静に距離が取れるようになる。また今後のプロパガンダでは、中国のレッドツーリズムのように、五感をすべて動員できる観光がかならず重要になってくる。『北朝鮮と観光』は、ベールに包まれた隣国を知るうえでも役に立つ一冊。最後に、『満洲分村移民を拒否した村長』はタイトルのとおり、戦前、満洲への農業移民に抗った長野県のある村長の話。「お前のところはなぜ人を出さないのか」という同調圧力に屈せず、国策の問題点を見抜いたその思想と行動は、青年期、市民による自主的な学習グループ・伊那自由大学に参加し、熱心に学んだことで培われたという。非常時が慢性化し、自粛圧力が吹きすさぶ今日、味わうべきエピソードではないか。
¥1,980(税込)|四六判・並製|本体256頁|2021/1/28刊行
1984年大阪府生まれ。文筆家、近現代史研究者。慶應義塾大学文学部卒業。同大学大学院文学研究科中退。著書に『日本の軍歌』、『ふしぎな君が代』、『大本営発表』、『天皇のお言葉』(以上、幻冬舎新書)、『文部省の研究』、『古関裕而の昭和史』(以上、文春新書)、『空気の検閲』(光文社新書)、『たのしいプロパガンダ』(イースト新書Q)など。