アートと生の力――新芸術校 金賞受賞者対談|磯村暖(第2期金賞)×弓指寛治(第1期金賞)

初出:2017年3月17日刊行『ゲンロンβ12』

 ゲンロン カオス*ラウンジ 新芸術校標準コース第2期最終講評会でみごと金賞を受賞した磯村暖さんと、同じく第1期の金賞受賞者弓指寛治さん。2月25日、上級コース成果展の最中の五反田アトリエにて、おふたりに対談していただきました。新芸術校の運営を担当するゲンロンの上田洋子の司会のもと、制作に対する考え、美術を始めたきっかけ、今後の活動方針などを存分に語り合っていただきました。(編集部より)

パーティーピープルとサッカー部

――磯村暖くん、最終講評会金賞おめでとうございます。暖くんは秋学期からの受講生でしたが、東京藝術大学を卒業し、すでにアーティストとしても活躍している、いわばエリートなわけです。にもかかわらず新芸術校に来たのは、最初から金賞を、具体的には副賞のワタリウム美術館地下のギャラリー、onSundaysでの展示を視野においていたのでしょうか。

磯村暖 それはちょっと違います。

弓指寛治 え、違うの(笑)?

磯村 違いますよ(笑)。藝大での4年間は絵画をメインに制作していました。新芸術校に入学してからの作品は絵画ではなく、新しい試みとして制作したものばかりなので、もともと持っていたスキルで金賞を狙おうというような、なまぬるい気持ちはありませんでした。金賞はもちろん嬉しいですが、成果としてあの作品を出せたということのほうがぼくとしては大きいですね。

弓指 でも、やっぱり狙いにはいったんちゃう?onSundaysでの展示の存在はものすごく大きい。それがないと新芸術校の金賞って、なにもないようなもんやから。

磯村 受賞する前から勝手にonSundaysを見学したりとかはしていました(笑)

弓指 それはとる気やん(笑)

――逆に、弓指くんは絶対に金賞をとるんだ、という意気込みを持って新芸術校に入学した。

弓指 はい、そうです。

――暖くん、受賞作品について、簡単に説明してもらえますか。

磯村 受賞作の《homeparty》は、ぼくの自宅でのホームパーティーにネパール人移民を招き入れ、東京に住むパーティーピープルたちとネパールの祭事「ティハール」を再現するプロジェクトと、それと並行して作られた映像、インスタレーション、ハプニングから構成されています。ティハールはもとはヒンドゥ教のものですが、文化の融和が進んだネパールでは、仏教徒をはじめ、ほかの宗教の信者も一緒に祝う大規模な祭です。この祭では、ヤマ王(閻魔大王)の遣いとして、ネパールの人々が悪事を働いていないかを日々監視しているとされる犬やカラスを、ご馳走を与え、ティカ(額に塗ることで神や死者と通じることのできる色粉)をほどこし、マリーゴールドの花輪を首にかけるなどして崇め奉ります。そして、ヤマ王に悪いことを伝えないようにお祈りするのです。

 ネパール人の友人は、ティハールを日本で実行するのが難しいと言っていました。「そもそも自分達の家を持っていないし、犬も飼えない」「コミュニティドッグ(地域一帯で世話をしている野良犬)もいなければ日本人との交流もなく、飼い犬に触れ合うこともない」「文化的にカラスに餌をやることはできない」などがその理由です。作品では犬やカラスの着ぐるみを被った日本人のパーティーピープルたちに代行してもらって、ティハールの儀式を実行しました。

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【図1】提供=磯村暖

 五反田アトリエでは、自宅でのパーティー空間を再構成し、そこにネパール人への取材やパーティーの記録をもとに作られた映像作品、体についたティカをシャワーで洗い流す犬の着ぐるみの映像、犬の着ぐるみを被った人間とパネルの上を循環しながら水を流し続ける装置を設置しました。水の循環装置は犬の着ぐるみについたティカや人間についた汚れなどを洗い落とす。その濁った水により、パネルの上にさまざまな粒子が蓄積し、絵を生成していきます。犬の被りものにはビデオカメラが付いていて、ヤマ王に代わって人々を監視する視点が間接的に再現されていました。さらに、犬の視点で撮られた映像がリアルタイムで展示空間外に設置されたディスプレイから観られるようになっていました。

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【図2】撮影=松尾宇人
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【図3】提供=磯村暖
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【図4】撮影=松尾宇人

弓指 パーティーをインスタレーションとして展示するという着想がすごい。

――移民のテーマも非常に複雑で、見どころの多い作品でした。onSundaysでの展示が楽しみですね。さて、弓指くんは受賞後も精力的に作品を発表していますね。暖くんは今後どのような活動をする予定ですか。また、金賞だけを狙っていたわけではないとすると、入学当初、新芸術校にどういったことを求めていたのでしょうか。

磯村 じつは今年の6、7月に「London Tokyo Y-AIR Exchange Program」というレジデンス・プログラムでロンドンへ行く予定があって、その関係で、以前からポストグローバリスムと移民問題を扱った作品を作ってみたいと思っていました。9月ごろ開催される予定のonSundaysでの展示にも、ロンドンでのリサーチや制作が反映されると思います。むしろ、レジデンスのプランのほうが新芸術校の成果展より先に手をつけていた。だから成果展という場で日本にいる移民をテーマにした作品を制作しフィードバックを得ることができたのは嬉しかったし、これからも発展させていきたいと思っています。

――先に移民というテーマがあり、それをいかに作品にしていくか、この半年間考え続けていたということですか?

磯村 もっと前からです。このテーマに対してはもっと根本的に取り組んでおり、その上で自分の作品を見直したいという思いがありました。ただやはり、昨年のBrexitとトランプの大統領当選があって、いよいよ「やるぞ」と作り始めたというのはあります。たとえば昨年8月に企画した個展でも、移民問題やグローバリズム以降の世界風景というのを考えながら制作を行いました。その後、新芸術校に入学し、さまざまな見識に触れて強化されていった。

弓指 子どものころの海外生活の経験がベースにあり、移民の問題を扱うようになったと話していたよね。たんなる時事性ではない。

磯村 中学生のときにオーストラリアに留学したことがありました。ぼくは小さいころ小児喘息で苦しんでいたのですが、小学5年か6年生のときに旅行でオーストラリアに行ったら、症状が出なかった。そのあとも日本では、不眠を併発し、夜は寝られないし昼も起きてられない、小6の後半からは不登校にもなってしまった。こんな状態で過ごしているくらいならオーストラリアに行ったほうがいいということになり、留学しました。そうしたら初日からすっかり元気で、そのまましばらくオーストラリアにいました。その後はたまに日本に帰っても喘息の症状が出なくなっていき、高校受験前には完全に帰国しました。

 中学生は凶暴な生き物で、オーストラリアにいたときはアジア人差別を受けました。それは大人になってから受けるような差別とはたぶん種類が違う、低俗な差別です。でもそんななか、ぼくを遊びに誘ってくれたのが、すごく「イケイケ」なやつだったんですね。それも、いじめられっ子とも仲良くしてそれをアピールしてやろう、とかそういう感じのひとではなくて、イケイケにはぼくのおもしろさを引き出す能力があった。ジェットスキーとかクリスマスパーティーとかホームパーティーとか、いろいろなことに誘ってくれました。すごく「いいやつ」だったんです。

弓指 まさにパーティーピープル。倫理的に、とかではなく、本当に受け入れられる経験をしたわけやね。

――「パーティー」というテーマの原点はそこにあるのですね!

弓指 「俺はイケイケにならないかん」って、このまえも言ってたよね。

磯村 はい、ぼくはイケイケにならなきゃいけないんです!

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【図5】イケイケのパーティーピープルを目指すと語る磯村さん

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1992年東京都生まれ。2016年東京芸術大学美術学部絵画科油画専攻卒業。2017年ゲンロン カオス*ラウンジ 新芸術校第2期金賞受賞)。Asian Cultural Councilニューヨークフェローシップ2019年グランティー。国内外での歴史や宗教、フォークアートに関するリサーチをベースとし、トランスナショナルな視点でインスタレーションや絵画などの制作活動を行う。近年は台湾の關渡美術館やタイのワットパイローンウア寺院での滞在制作、東京のクラブイベントとのコラボレーションなどフィールドを横断した活動を展開している。近年の主な個展に、「わたしたちの防犯グッズ」(東京、銀座蔦屋書店、2019年)、「LOVE NOW」(東京、EUKARYOTE、2018年)、「Good Neighbors」(東京、ON SUNDAYS/ワタリウム美術館、2017年)、「地獄の星」(東京、TAV GALLERY 、2016 年)。近年の主なグループ展に、「TOKYO 2021」(東京、TODA BUILDING、2019年)、「City Flip-Flop」(台北、空總臺灣當代文化實驗場、2019年)、「留洋四鏢客 」(台北、TKG+、2019年)

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1986年生まれ。芸術家。三重県伊勢市出身。2016年に母の自死をモチーフに描いた《挽歌》でゲンロン カオス*ラウンジ 新芸術校第1期金賞。2018年、第21回岡本太郎現代芸術賞岡本敏子賞。おもな個展に「Sur-Vive!」(onSundays、2016年)、「四月の人魚」(五反田アトリエ、2018年)、「ダイナマイト・トラベラー」(シープスタジオ、2019年)など。あいちトリエンナーレ2019に「輝けるこども」で参加。 撮影:小澤和哉

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