ひらめき☆マンガ教室 主任講師による全提出作品ショートレビュー特別公開|さやわか

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ゲンロンβ36 2019年4月19日発行
 ゲンロンが運営する、マンガ家育成スクール〈ゲンロン ひらめき☆マンガ教室〉第4期の受講生募集を開始しました。本スクールでは、マンガの描き方を教えるだけではなく、編集者とのコミュニケーションや商業誌への持ち込みなど、「マンガ家になる」ために必要な壁を乗り越える、実践的な講義とワークショップを行います。 ここでは本スクールの主任講師であるさやわか氏が、第二期の受講生の提出作品に付したコメントを掲載します。本スクールでどのような指導が受けられるのか、雰囲気をつかむのにぴったりです。また各受講生の名前のリンクからは、提出された実際のネーム・完成稿を読むことができます。こちらもあわせてお楽しみください。 受講のお申込み、詳細なプログラム、スケジュール、講師紹介、過去の受講生の声・作品などは、ひらめき☆マンガ教室サイトをご覧ください。なお、お申し込みは先着順となりますので、お早めに!(編集部)
以下に掲載するのは、「ゲンロン ひらめき☆マンガ教室」の受講生が提出した課題作品に対して、主任講師である僕こと、さやわかがコメントを付けたものです。 これはもともとは、僕が講義当日に各作品について話す際に参照するためのメモでした。メモには、提出作品が課題の指定を満たしているか、僕が面白いと思ったかどうかについて書いています。しかしそれ以上に、提出された作品が表現としてどこがよく、どこが悪いのか、それはなぜなのかを、具体的な理由を添えて書いています。内容が受講生の参考にもなるということで、あるときから、講義終了後、受講生にも回覧させるようにしました。 このやり方を採り入れたことで、よかったことがふたつあります。ひとつには、受講生が課題提出について積極的になったことです。当然のことですが、受講生はみな作品を評価されたいと思っています。褒められなかったとしても、何を直せばより良くなるのかを知りたいと考えています。けれども、講義の時間は限られるため、全員の作品について詳細に語ることはできません。しかしこのメモを見れば、受講生みなが、次回の課題で何を目指してどう頑張るかを考えることができます。 そしてもうひとつは、このメモをまとめることで、マンガ批評のひとつの基準を示せたということです。ひらめき☆マンガ教室は、読者側からではなく、作家側からのマンガ批評の可能性を模索する教室でもあります。マンガ家がマンガを描いているときに、実際に何を意識しているのか、どう読まれるために何をどう描くか、それを明らかにしようとしています。このメモは、受講生に作品の改善案を示すことで、そうした批評的視座を提供するものにもなっています。 来期以降のひらめき☆マンガ教室でも、このメモの回覧を続けることで、受講生とマンガの評価軸を共有し、マンガについて新しい議論が生まれる場を作っていきたいと思っています。「ゲンロン ひらめき☆マンガ教室」にご期待ください。

ひらめき☆マンガ教室第2期 課題7 「感触が伝わる漫画(再)

 
<課題文> 漫画に関わらずエンタメの面白さの一つに「共感」があります。それは大まかに二種類あって、一つは知識、体験の共感。そしてもう一つは「肉体に備わる五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)」の共感。その中でも今回は「触覚・肉体的接触」をテーマにしてください。 何かしらか肉体が触れあうシーンを肝にして創作してください。指と指が触れあうような繊細なドラマでもいいし、激しく殴り合うハードヒットな格闘物でも結構です。 私はエロ漫画家ですが、提出する作品はエロやセクシーの要素を必ずしも入れる必要はありません(もちろんがっつり成年向けにチャレンジしていただいてもOKです)。 というのを去年の私の回の課題で出させて頂きました。講義でお話しさせて頂いてあらためて漫画の面白さの一部に触れえる課題でなおかつ、「没入性」にも大きく関わる課題だと思いましたので、今年もコレでお願いいたします。 去年の講義を聞いてない方のためにヒントを。接触のシーンはサイレント、セリフを無くしてみてください。(師走の翁)
<ネームへのさやわかコメント>Suda。「アイする」 顔の表情による登場人物の感情的なリアクションを意識的に減らしているのだと思いますが、それによってたしかに全体的な不穏さは高めることができているようですね。しかし一方でこのやり方は全体の調子(テンポ)を一定にしすぎることになるので、作品全体が平坦な感じを受けないでしょうか? それを狙ってやっているのであれば申し訳ないです! が、個人的には読者にもうちょっと見せ場とか読後の余韻とかを作ってほしいかな……と思いました。どうでしょうか? ●森井餡「かさぶた」 なんてこわい話なんだ……。作者の意図とは違うのだと思いますが、サイコパスの小話を思い出してしまいましたw エピソードは明快で、そのぶんコマ割りも分かりやすいものを選んでいて好ましいです。また、さすが去年の1期生、師走の翁さんの課題の要求にきっちり寄せてきたな! と思わされました。ただ個人的には、殴られるシーンのほうが強調されてしまっているきらいがあるので(暴力だし、当然そう感じやすいですよね)、「先生に触られている」ほうももう少し大きいコマを使って描いてあげてもいいのでは、と思います。そうすると、殴られている方と治療されている(触れられている)方の、両方の「感触」がつながりを持っているんだとちゃんと対比的にわかるようになると思います。 ●ねりけし「美容室難民」 ねりけしさんはラストのような勢いのあるギャグが上手ですよね……。テンガロンハットの美容師さんとかもいい感じです。しかしそうなると、超平凡な「地方あるあるマンガ」っぽく始まってしまう冒頭部分とのギャップがデカすぎませんでしょうか。というか、マッサージの話を劇的にするよりは、この導入部からだとあと2~3人、「こんな美容師もいました」という「あるある」を並べていくのが自然かなと思います。マッサージのほうをメインにするなら、この人ひとりだけにして、「へんなマッサージをする美容室に行った」という話にしたほうがあちこち混乱せずに読めるんじゃないでしょうか…… ●やまだ亜麻「ツインテールと筋肉男」 「感触を伝える」シーンの作り方は今回提出された課題の中でも最もうまくやれていたのではないでしょうか。それは山田さんが、セオリー通りのマンガっぽさをちゃんとやるからこそ、できているのだと思います。話としては Twitter でバズらせる系のやつだと思うので、もうちょっと1ページ目にも目を惹く要素を入れて積極的にツカんでいってもいいかなと思います。この作品、明らかに2ページ目でツカんでいるのは紙媒体的な「めくり」を意識していて、それもやはり山田さんがマンガ的なセオリーをやれるからこそだと思うのですが、Twitter マンガ的なモノだともうちょい急いでもいいのでは? というあたりだけが気になりました。 ●平坂 系「デモンズドライブ」 平坂さんの作品は、あいかわらず絵に魅力があって、なんだか面白いことが行われているような気がする……! しかし! やっぱよくわからない……! という感想でした。テンポ感があまりにもせわしなく、ほとんどの説明やリアクションを端折っているからなのだと思うので、分かりやすくするならそこを意識すべきかなと思います。ぶっちゃけ、このノリでやると、何を描こうがどんなネタだろうが全部「このノリ」「この不条理感」のマンガとしてのみ(言ってみればどれもぜんぶ同じ作品であるかのように)読者には読まれてしまうので、それはいささかもったいないのではないでしょうかね……と、個人的には思います。 ●カマナリ「タッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」 扉ページで終わるマンガ……! 当然、課題の要求した「感触」まで至っていないわけですが、それでも提出してくださったことを最大級に評価したいと思います! ただひらめき☆マンガ教室の教えとしては、それなりの絵の質を意識して頭から順に描いていって力尽きるよりは、ネームなりの「最後まで描ける」絵で仕上げるのがベスト、ということになるので、うーむ残念だーという感じです。 ●静脈「一度きりのヒーロー」 後半はいいのですが前半でもちょいちょい、ナナメに切っているコマがあってそれがすごく気になりました。あんまり動きを出す必要のなさそうなところだったので……それはともかく、感触を伝える課題にはよく応えているのではないでしょうか。ラストの展開から大ゴマを意識して使っているのも好ましいです。最後2ページとかいいですね! マンガの作りとしてはたぶんネット向きを意識してるんだろうなと思いますが、この内容が描けるなら、紙媒体でもやっていけるんじゃないかなと思います。それを意識するかは静脈さん次第なのですが……! ●首藤「スーパー・男子校・マシン1号」 首藤さん、あいかわらず、どことなく使えそうなコマ割りを繰り出してきますね。ただ、これもいつもそうなのですが、「こうなるだろうな」と思ったら、やっぱそうなるわけでして、何か物語としてもうちょっと意外性がほしいかなと思います。部室で見てるのがAVじゃなくて、まじで「これが練習だ」と思っちゃうようなものでないと、登場人物はともかく読者には「え? もしかして本当にそうなの?」という気分になってもらえないのではないかなと思いました。途中のテニサーの女の子がもったいないので、この子をうまく使うといいんじゃないでしょうか。 ●みよしよしみ「YONKOMA」 なんかこれ、面白いですよ! 正直、よいと思います。ただサイレントで4ページというのは少し読み応えとしては足りなかったかな、という感じです。なんというか、単行本のオマケ漫画みたいなノリですよね……。感触をテーマにしてるんですという全体のタイトルをつけて、登場人物を共通にして、あと4本くらい増やして、みたいなことをやって読み応えを出せばけっこういい感じだったのかなと。それと何度か言ってますがサイレントはみんなやりがちなのですが実は難しいんですよね。なので、3本目のやつとかはきわめてわかりにくくなってしまっていると思いました。それでもサイレントをやるのであれば、「誰がどう見ても絶対分かるかどうか」というのを何度も何度も見直して、検証に検証を重ねてからやってみるといいのではないでしょうか。個人的には、だったら、セリフをちゃんと考えてマンガを描くのもたいしてかわらないしんどさだと思うのですが……。 ●なるとも「タコヤキパーティまで、あとすこし」 これも、また、さすが去年の1期生、師走の翁さんの課題の要求にきっちり寄せてきたな!という一本です。そつがない! あと、女の子をどこでかわいく見せてやるかという4コマ短篇の描き方をちゃんと意識できているのがいいと思いました。アピール文にもありますが、めくりを意識してるのに4ページというのは読み応え的にもうちょい欲しい! という気はしますね。しかしおそらくですが、これは締め切りまでに描けるページ数から逆算して出してきたネームなのでしょうから、ひらめき☆マンガ教室的には極めて正しいやり方だと思います。 ●福西 奈苗「飲み屋でよくある話」 これまでの福西さんの作品とうってかわって、日常感のある話。まあ、タイトルからそれは明らかなわけですが……。しかしこういう世俗的な話(大人がどこか気になってしまう話)を描けるというのは福西さんには意外な才覚かもしれないと思いました。もうちょっと整った絵のネームで見てみたかった気がします。アンドゥができるのでアナログよりもこのやり方のほうがいいとのことでしたので、誰か液タブか板タブを貸してあげてほしいですね……。もしくは、ここからどちらにせよペンによる作業に進むわけですから、編集者などに見せる場合はそこまでやったものを「ネーム」として渡すなどしたほうがいいのではないでしょうか。内容的に気になるものを描かれるからこそ、完成形を想像できるようになっているといいかなと思います! ●しらこ「人魚は脚フェチ」 ちょっとした恋心が描かれているわけですが、そうはいってもシリアスなものではなく、かわいいほのぼのテイストという感じで、これはこれでいいのではないでしょうか。しらこさんらしい、気軽に読める良さがあると思います。アピール文に書かれているような意図は、ちゃんとできていると思います。あとはこれ、枠線などは今のフリーハンドの感じを残すのだと思いますが、実はかっちり定規で引いていくプランもありだと思いました。どれを選ぶかは作者次第かなと思います。重箱の隅的につまんないことを言うと、フリーハンドの場合はコマ間の幅がそれなりに一定になるように意識した方がいいかなと思います。今はネームなせいもあってわりとふぞろいなので、ちょっと時間経過が発生しているように見えるんですよね。 ●寿司クリーム「不自然さんは自然になりたい(未完)」 「(未完)」と堂々と言ってしまっているので、その時点で評価を下げざるを得ないのですが、エピソードとしてはまとまっている気がします。だからそのへん、つらーっとして「最初からここで終わりのつもりでした」と言ってのけるのもアリだと思いますよ。ただ寿司クリームさんの作品、ここ何回かわりと悩める女の子が自宅に帰ってきて何か(自己を写すモノ)と向き合うシーンがあって、ちょっと前向きになるというパターンが見えてきているので、そのパターンがあること自体は全然オッケーなのですが、それを軸足にして何となく手を変え品を変えでやるというのは正しいことだと思います。そのために、この続きを描く必要があったと言うことなのかな……? ●市庭実和「グリーンフィンガー」 市庭さんの作品、徐々に文字数も少なくなりリーダビリティがあがり、それに伴って間を作って余韻を発生させることでドラマとしての質が上がってきました。今回は今までの作品の中でもそれがかなりうまくできていると思います。4ページ目2コマ目のドアが閉じてる描写とか、他のマンガにありがちな表現を取り入れているのもうまくいっています。マンガの「文法」ってこういうことですよね……。ちょっと残念なのは今回の課題のテーマである「感触」を効果的に伝えられたかというのが難しいのでは、というところでしょうか。残念ながらアピール文で書かれていた「最後の手を握ったときの体温と、バラのトゲの感触」は、マンガ全体からしても最も小さめのコマで描かれていますよね。このネームで一番「感触」がインパクトあるものとして伝わるのって、正直5ページ目の女性が殴られたところとか、その後のキスやセックスになっていますよね。また、そこを重視するにしても、もう少し読者にそこで触れる瞬間のテンポを引き延ばすべきですし、また絵的に効果的な見せ方ができればと思います。たとえば6ページの女性の唇のアップの絵をもっと意識して見せるだけでも、全然違ったのでは…。 ●をくのえ もか「モリュメメント」 主人公の破綻したムチャクチャな感じは面白いと思います。ただそのわりに作品全体の文字が多いため、彼の無軌道ぶりにブレーキがかかってしまっているのではないでしょうか。マンガの場合、作品の時間の進み方は読者の読む速度に影響されるので、単純に全体の字数が多いとそれだけスピード感が殺されてしまいます。やっかいなのは別に主人公が言ったセリフでなくともそうなる、ということでしょうかね。それから、読んでて気づかなかったんですけど、そういえばこの作品、あんまり接触をテーマにしてないですよね!? 格闘シーンとか、やろうと思えばそういうニュアンスを出すこともできたと思うのですが……。 ●中山 墾「テイカピス」 あれ? と思って数えてみたら当然のように20ページ以上あったので笑ってしまいました。どおりでボリューム感があるわけでした。なので、他の提出作品と同列に並べて語るのはフェアじゃないわけですが、あくまで個人的な感想としては面白く読めました。ただ気になったこととして、テンションがやけに上がりっぱなしなのは作風として受け入れられるとしても、もうちょっとどこか一瞬でも緩急付いていていいのではないか、ということです。主人公がたえずドギマギしているばっかりなせいもあって、作品全体のテンポ感がせわしない気がします。たとえば16ページの月とカエルのところをもうちょっとワンクッションとしての効果が明確になるようにできたらいいのでしょうかね……。あとはやっぱり、おしっこかける直前のタメですかね。 ●土屋耕児郎「雷」 アイデアは非常に面白いと思います。それから、何ページ目で何をやるのかという作品全体の構成がちゃんとある。だから殴るシーンみたいなクライマックスを効果的に見せることができているのがいいなと思いました。あと、オチ(最後のページ)がいいですね。マンガのオチって、こういう感じですよねw ただ、課題のテーマであった「感触」を作品の中心的なテーマにしようとしたのはわかるのですが(そのやり方自体はとてもいいと思います)、実際のところあまり感触を伝える演出にはなっていないんじゃないかな、と思いました。たとえば雷の形状がトゲトゲしい見た目にはなっているのですが、主人公はこともなげにそれに触れていますし、また「重い」と言わせるなら、苦労して持ち上げているというシーンにしたほうがいいかなと思いました。いかがでしょうか。 ●古城 まな「となりの席の伊藤さん」 感触を伝えるクライマックスの描写にじっくりページを費やしていて、とてもいいと思います。また今どきのグイグイ来る系ヤンキー&地味子ものとしても、古城さんの作風にはマッチしていますね。古城さんも寿司クリームさんと同じく、描きたい(または得意な)方向性がある程度定まっていて、その範囲内で少しずつ違うものを描いているように見えます。そのやり方は間違いではないので、「同じなのに違う」作品を作るトライアンドエラーを繰り返して読者の好みに近づけていければいいのではないでしょうか。個人的にはもう少しキャラを強めに出していった方がいいと思うんですが、たぶん古城さんはそこまでしたくないのかな、と思います。しかしそうなるとスタイリッシュではあるけれどもさりげない作品になって、読者を限定することにつながります。何か、この作品でないと読めないモノ、古城さんならではのテイストがあるといいと思うのですが……。 <完成稿へのさやわかコメント>古城 まな「となりの席の伊藤さん」 髪型がテーマだからこそ、こうなったのかもしれませんが、女の子のディティールがしっかりしていてとてもかわいく描けているのがよかったです! 衿沢世衣子みたいな、素っ気ないんだけどそれがリアルさにつながるような感じが好ましいですね。今までの古城さんのマンガのなかで、そこが一番よかったです。キャラやストーリー展開もそうなのですが、古城さんはかなり「さりげない」ことを好むところがあって、それは作風(作家の個性)として悪くないと思うのですが、であればそれはそれで「これは、さりげなさがあるタイプのちゃんとかわいいマンガです」というのをアピールしなきゃいけないのですね。というか、実はさりげないマンガであればあるほど、細部がないとまずいわけですが、これはそれができていると思います。 ●中山 墾「テイカ・ピス」 仕上げの雑さに見えるか、そういう絵柄に見えるかというのがこのマンガの最大の評価の分かれどころだと思いますが、個人的にはもう少しほしかったかなという気持ちがありました。女の子のかわいらしさを出す大ゴマはかなりきちんとできていると思います。そこはよかった。また、背景の粗さなどは高橋ツトムのマンガくらいのものなのでいいと思うのですが、個人的にとりわけ気になったのは斜線(集中線やトーンの代わりに引いているもの)がハミ出していたり、重なっていたりするところが気になってしまいました。これはもう、作業時間との勝負なのでしかたなかったですね。でもこれは、しっかりした編集者に見せればちゃんと実力があるとわかってもらえるものだとは思いますよ。 ●土屋耕児郎「雷」 物語の「大人の日常ファンタジー」っぽさと絵柄は合っていると思います。もうちょっと丁寧に描いてるのが伝わるといいのですけどね(丁寧じゃないというわけではないのですが、単純に技術の問題として)。しかし個人的にはおじさんに殴られるシーンをクライマックスにするのは変わらないのだと勝手に思っていたので、あれ? 増やすエピソードってこっちなんだ! と驚きました。足したシーンについてですが、見開きででかいのを引っ張ってる男の顔、もう少し陰を落として見えなくしてあげた方が不気味さが際立ってよかったのではないでしょうか。 ●市庭実和「グリーンフィンガー」 植物がテーマの作品なので、植物がリアルに描かれているのがとてもよいです。こういうところは、大事なことです。また、修正したラストの展開は、ネームに比べてずっとよくなったと思います。ただ、このどうしようもない救いのなさは、やっぱり変わりませんよね。思うに、「いつだろう?」とか言われても、ひと死んでるじゃん! 遅いよ! まずいだろ! という気持ちになるのが、やっぱりよくないのかもしれません。いや、よくないとか言ってもそういう話なのでしかたないのですがw、もともとこの物語がもっている救いのなさによって味気なくなってしまっている、という感じでしょうか。でも、小道具の使い方やラストの演出などよくまとまってるし、マンガとしても読めるものになったので、僕はかなり市庭さんの前進を感じて好きです。 ●をくのえ もか「モリュメメント」 絵の細密さと黒を生かした雰囲気は好きです。仕上げも丁寧さがある。ただそれにしては動きが描き切れていないと思うので、そこが惜しいと思わせました。この絵の方向性だとうまくなるしかないので……。それに加えてこの台詞回しだと、すこし作者が本来出したいであろう破綻した(アウトローな)感じがうまく出ないように思います。絵なのか、台詞なのか、どっちかにもう少し力が抜けて見える部分があると、かえって力強く見えると思うのです。わかりますかね……。
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さやわか

1974年生まれ。ライター、物語評論家、マンガ原作者。〈ゲンロン ひらめき☆マンガ教室〉主任講師。著書に『僕たちのゲーム史』、『文学の読み方』(いずれも星海社新書)、『キャラの思考法』、『世界を物語として生きるために』(いずれも青土社)、『名探偵コナンと平成』(コア新書)、『ゲーム雑誌ガイドブック』(三才ブックス)など。編著に『マンガ家になる!』(ゲンロン、西島大介との共編)、マンガ原作に『キューティーミューティー』、『永守くんが一途すぎて困る。』(いずれもLINEコミックス、作画・ふみふみこ)がある。
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