SFつながり(7) 異類婚姻とゲームと犬|藍銅ツバメ

初出:2022年12月23日刊行『ゲンロンβ79』
「SFつながり」は、〈ゲンロン 大森望 SF創作講座〉の関係者をはじめ、SFの作家や著者にエッセイを寄せていただくリレー連載です。
 今回の寄稿者は2020年に「第4回 ゲンロンSF新人賞」の優秀賞を受賞した藍銅ツバメさん。藍銅さんは講座の卒業後、『鯉姫婚姻譚』で「日本ファンタジーノベル大賞2021」を受賞しデビューしました(単行本は新潮社より2022年6月刊行)。本エッセイでは、人間と人間以外の種族が結ばれる物語になぜ惹かれるのか、ご自身の半生を振りかえります。
 藍銅さんは今年7月、同じくSF創作講座に参加された小説家の櫻木みわさん、新川帆立さんとともに、ゲンロンカフェに登壇しました。本稿の公開を記念し、シラスではイベントのアーカイブ動画の公開期限を半年間延長(2023年7月6日まで)しています。この機会にぜひご覧ください。(編集部)

 

櫻木みわ×新川帆立×藍銅ツバメ「生きる、戦う、書く──SF創作講座卒業生3人が語る新人作家のリアリティ」URL= https://shirasu.io/t/genron/c/genron/p/20220707

 こんにちは。犬とゲームとハヤシライスが大好き、藍銅ツバメです。作家をしています。ゲンロンのSF創作講座4期を卒業して第4回ゲンロンSF新人賞の優秀賞を受賞しその後日本ファンタジーノベル大賞2021を頂きました。その受賞作『鯉姫婚姻譚』が初めて出した単行本です。

 慌ただしい1年でした。今、これを書いているのが11月末なのですが、ファンタジーノベル大賞2021の最終選考通過のお知らせが来たのが去年の10月半ばごろ。仕事帰りでした。全く心当たりのない電話が2件ほど来ていました。怖かったので無視しようと思ったのですが、電車を降りたところでまた電話がかかってきてしまいました。しかたなく応答すると、なんと出版社からではありませんか。人通りの多い駅のホームなのでいまいち聞こえませんが、最終選考通過おめでとうございます、というようなことを言っている気がします。

 隅っこにしゃがみ込んで詳しくお話を聞くとファンタジーノベル大賞2021の最終選考に残っており、その際の応募原稿に本名が記載されていない上タイトルが2つ書いてあったそうです。どちらのタイトルにしますか、と訊かれたので『鯉姫婚姻譚』の方で、と答え、ついでに本名も伝えました。11月初めに結果をお知らせします、と言われて、電話を切りました。

 非常に驚きましたね。応募したのは確かなのですが、とっくの昔に落選していると思い込んでいたのです。それから半月程の結果がわからない時期は情緒不安定で過ごしました。結果通達の日も取り乱しており、むやみに予約を入れてしまった美容院で髪を切って貰ったりしていました。綺麗に整った髪形のまま家に帰ります。16時から18時の間に連絡すると言われていたので、お昼寝して電話を待ちました。起きたら18時を過ぎていたので、丁度帰ってきた姉と同居人に電話がこないからもう駄目かもしれないと述べているところに連絡がきました。おめでとうございます、ということでした。

 そういうわけで受賞コメントを書いたり雑誌に載る写真を撮ったりしているうちに11月が終わり、12月から5月までは『鯉姫婚姻譚』を書き直し、6月末にようやく発売となりました。この『鯉姫婚姻譚』は、人間と人間以外の種族が結婚する伝承、異類婚姻譚を題材にしています。主人公の若隠居した青年は、屋敷の庭の池に棲む人魚の童女に様々な異類婚姻譚とその悲劇的な結末を語ります。しかし人魚はその終わりを肯定し、青年に求婚し続ける。この2人が迎える結末は青年が言うように悲しみに満ちたものだろうか。人魚が言うように幸せに終わるのだろうか。そういうお話です。

 昔から異類婚姻譚が好きで、どうしてだろうなと考えていたのですが最近思い当たったことがあります。私は小学生の頃、『牧場物語 コロボックルステーション for ガール』というDSのゲームを熱心にプレイしていたのですが、これにレタスという名の人魚の女の子が出てくるのです。牧場の敷地に池を作り、人魚の愛情度が最大の状態でプロポーズすると式を挙げ一緒に暮らすことができます。主人公が女の子だったので「結婚式」ではなく「大親友の儀」という名目にはなっていましたが、私は小学生の時確かに人魚と結婚生活を送っていました。

 このゲームでは人魚以外にも女神や魔女、地底の眠り姫と結婚することが可能です。これらのキャラクターと結婚するためには、石化した女神を救出したり、魔女に好かれるために家畜を殺したり、眠り姫に貢物を渡すために地下255階まで繰り返し降りたりと複雑な手順を踏む必要があります。人ならぬものと結ばれるためには障害を乗り越えなければならないけれど、その先には幸せな未来があり、女同士でも女神さまが子供を授けてくれる。牧場物語は神話であり異類婚姻譚でもありました。この経験が『鯉姫婚姻譚』を書く下地になったのかもしれません。

 異類婚姻譚の関わるゲームと言えば、高校生の時によくプレイしていたDS版『ドラゴンクエストⅥ』(ドラクエ6)のことも思い出されます。このゲーム中でも漁師の男と人魚の恋が描かれており、マーメイドハープを使って辿り着く海中の世界や神秘的な海底神殿と合わせて非常に印象に残っています。ドラクエ6には雪女と人間の邂逅や、鏡の中の姫に惹かれる人の王、モンスターになってしまった人間などのエピソードが挟まれ、夢と現実、異種族と人間の境目が非常に曖昧になっています。これに関しては、大人になってから読んだ加納新太「『ドラクエ6』が本当に目指したもの(1)バーバラと竜」という記事(URL= http://kanoh.cocolog-nifty.com/blog/2012/09/post-e9fe.html)が興味深く、強く影響を受けました。シナリオ制作の初期段階では、ある登場人物の正体がドラゴンで、主人公がその人と結ばれる物語が構想されていたのではないか、という内容です。

 ドラクエ6が異類婚姻譚だということを意識したのはこの記事を読んでからですが、高校生の頃からドラクエ6についてはよく考えていました。6はドラクエシリーズの中でも飛びぬけてストーリーが曖昧で、2つの世界を行き来するために現状を掴むのが難しく、個々人で想像力を働かせる必要があり、それこそが魅力でもあります。本当に高校生の頃はドラゴンクエストのことばかり考えていたので、2年生の夏休みに貰ってきた仔犬に「パルプンテ」という名を付けました。パルプンテというのはドラゴンクエストに出てくる「何が起こるかわからない」という効果の呪文です。すくすくと育ったパルプンテは、その名の通り散歩紐を噛みちぎり犬小屋を破壊し日に4時間の散歩を要求する何をしでかすかわからない犬になりました。

 思えば高校生の頃、ドラクエについて思い悩み、パルプンテという名の犬と徳島の田園風景の中日々散歩を繰り返していたこの時期が私の創作活動の始まりでした。退屈な授業中にルーズリーフに書いたライトノベル調のファンタジーが、私が初めて書いたオリジナルの小説だったと思います。現物は残っていませんが、思い出せるストーリーはこうです。

 

【魔王が既に封印された世界。百年に一度封印の綻びを直すために生贄を捧げる。神託で選ばれたのは生贄候補の子供三人と導き手。剣士、神官、魔法使いとして優れた才能を持った三人の少年少女は目を輝かせ、自分こそ栄誉ある生贄に最も相応しいと言い募る。導き手は少年少女を守り導き、長い旅の果てに誰を生贄にするか決断しなければならない】

 

 なかなか面白い設定だったと思うのですが、高校生の時の私は完結させるどころかルーズリーフに数ページしか書きませんでした。それでも図書室でよく会う友達や司書教諭に見せたりして、それなりに楽しんでいました。

 似たようなことは小学生の時にもしていました。学校でお話を作る時間があり、少年少女が冒険に出かけるという設定とお花畑やワニのいる沼や宝箱などが描かれた地図が教科書に載っていて、それを元にお話を考えるという授業でした。登場人物の設定や持っている食料、道中のキャンプ描写などに文字数を使いすぎて宝箱まで辿り着けなかった覚えがあります。情報の取捨選択が上手くいかずエンディングに至ることはできませんでしたが、こうやって覚えているということはそれなりに頑張って考えたり先生に褒められて嬉しかったりしたのでしょう。

 先日、親戚の小学5年生の夏休みの宿題を手伝ったのですが、それも小説を書くというものでした。自由研究の題材にそんな大変なものを選ぶだけでも素晴らしいですし、感心したのは最後まできちんと書き上げてきたことです。私が手伝ったのは最初の設定段階と途中の手直しくらいでしたが、夏休みの終わりにはとても可愛らしい魔法少女ものの心温まる友情物語が出来上がっていました。

 私は完結しない話をたくさん書いて過ごし、終わらせることができるようになる頃にはもう大人になっていました。それからSF創作講座に通って物語を考える訓練を積み、そういったことの重なりの上で賞を貰ったりして本を出して今も新しい話を書いています。それもこれも幼少期からゲームに勤しみ、現実を顧みず想像を膨らませてきた結果だと自負しています。これも創作活動に必要なことだと信じ、最近はポケモンの最新作に励んでいます。

 私は1995年生まれで、シリーズの初代『ポケットモンスター 赤・緑』の発売は1996年です。私の物心ついてからの人生はポケットモンスターと共にありました。『手のひらピカチュウ』を繰り返し手の上に載せ、『ポケットピカチュウ』でピカチュウと共に歩き、『ピカチュウげんきでちゅう』で繰り返しピカチュウに語りかける少女時代でした。人ならざる者への執着はここで育まれたのでしょう。数いるポケモンの中でも特に、みずタイプのシャワーズとドラゴンタイプのミニリュウが好きなのですが、水の中に棲み、長い尾を持つものへの愛情はここから始まり、『鯉姫婚姻譚』へと繋がったのかもしれません。

 ポケモンの世界にも異類婚姻譚は伝わっています。『ポケットモンスター ダイヤモンド・パール』にてシンオウ地方のミオ図書館に向かい、本を読むと「人と結婚したポケモンがいた ポケモンと結婚した人がいた 昔は人もポケモンもおなじだったから 普通の事だった」と記されています。あくまでシンオウ地方の伝説ですが、人とポケモンの境が無く自然に愛し合える時代があったのかもしれません。

 最新作の『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』は犬型ポケモンを扱ったシナリオが良く、私も思わずパルプンテのことを思い出して涙ぐんでしまいました。猟犬を育てている家から貰ってきた時はパルプンテはまだ耳の垂れた仔犬で、私は高校生でした。先程までスリッパを噛み千切っていた仔犬が疲れ果てて私の膝の上で眠っている。それは今思い出しても、泣きたくなるほど幸せな瞬間でした。

 今ではパルプンテは10歳を超え、私は東京に来て作家になりました。両親も徳島から神奈川に引っ越してきたので現在パルプンテも神奈川にいます。会おうと思えばいつでも会える距離なのに、最近会っていませんでした。新作ポケモンをプレイして、犬をもっと大事にしようと強く感じたので直近の締め切りを片づけたらパルプンテに会いに行こうと思います。皆さんも近いうちに実家に帰って犬に会ってみてはいかがでしょうか。人によっては、会いたい存在が猫だったり兎だったり鳥だったりするかもしれませんが。結局のところ、あなたに誰よりもひたむきに想いを向けてくれるのはそういう、人ではない生き物かもしれません。

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1995年、大阪生まれ。徳島大学総合科学部人間文化学科卒業。ゲンロン大森望SF創作講座、4期受講生。『めめ』で第4回ゲンロンSF新人賞優秀賞受賞。『鯉姫婚姻譚』で日本ファンタジーノベル大賞2021大賞受賞。近作に『Niraya』(小説すばる2022年4月号掲載)、『春荒襖絡繰』(小説新潮6月号掲載)、『鯉姫婚姻譚』(新潮社)、『青蝋百物語』(小説新潮12月号掲載)など。

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