浜通り通信(1)|小松理虔

初出:2014年5月3日刊行『ゲンロン観光地化メルマガ #12』

 こんにちは、いわき市小名浜で「UDOK.」というオルタナティブスペースを主宰しています、小松理虔と申します。今回から、この「浜通り通信」という連載を担当させて頂くことになりました。浜通りの「生」の話題をお届けできればと思います。

「浜通り」と一口に言っても、北端の相馬郡新地町から南端のいわき市勿来までは、直線距離にしておおよそ120kmほどあり、ゲンロンのある五反田から富士山までの直線距離がおよそ100kmであることを考れば、「浜通り」がいかに広大かがわかるでしょう。「浜通りと言ってもいろいろある」ことを念頭にお読み頂ければと思います。

 私は、その浜通りのうち「いわき市」の話題を中心に紹介していきますが、月に2回、広大な浜通りの話題を皆さんにお届けしなければなりませんので、私以外にも、個人的につながりのある様々な「浜通り人材」にも寄稿をお願いしていく予定です。皆さんと浜通りの「接点」として、この場を盛り上げていければと思っていますので、どうぞお楽しみに。

 さて、本題に入る前に、私とゲンロンとの関係についてお話しさせて頂くと、いわゆる『フクイチ本』刊行前に、ゲンロンから、いわき産のかまぼことエリンギを詰め合わせた『25年後の福島を考える私たちの「福島の食」セット』が発売されたのですが、私は、そのかまぼこメーカー「貴千」に勤務しており、それがきっかけでゲンロンとの関わりが生まれました。

 学者でも文筆家でもアーティストでもない、かまぼこメーカーの一社員である私が寄稿させて頂くというのは、正直「場違い」な感じがします。しかし一方で、福島県内の興味深い活動ほど、通常のプロジェクトでは起こり得ないような「異クラスタ間」の恊働や、業界のルールや人脈に左右されない深い連帯が大きな特徴になっているようにも感じています。

 この寄稿も、その流れに属するものであるならば、「場違い」なほど地元に特化したコアな話題や、当事者ならではの率直な意見発信を続けること、そこで、皆さんと浜通りの新たな関わりを生み出していくことが、私たちの役割なのではないかと考えています。プロではありませんのでつたない文章になるかと思いますが、どうかお付き合いのほどを。

いわきに生まれた奇空間「いわき回廊美術館」

 いわきと縁のある現代アーティストの蔡國強さんが手がけた「いわき回廊美術館」というスペースで、先日、いわきと蔡さんとの20年に渡る交流を祝うイベントが行われました。市内の食品メーカーや飲食店がブース出店をした「屋台美術館」という催しも同時開催され、私もかまぼこ屋として「いかのげそ揚げ」を販売させてもらいました。

【図1】いわき回廊美術館での交流イベントには、地元の人が多数来場
【図2】屋台で必死にいかゲソを売りさばく筆者。津田さんに食べてもらいたかった
【図3】交流イベントでゲストとして招かれた増田セバスチャンさん

 いわき回廊美術館は、いわき市神谷(かべや)地区の山林を整地し、その斜面の上を縫うように建築された「屋根付き遊歩道」のような建造物です。蔡さんがコンセプトデザインを行っており、英語で「The Snake Museum of Contemporary Art」と表記するように、まさに蛇が斜面を這うような形状をしているのが特徴です。

【図4】山林を縫うようにしつらえられた回廊。四季折々の表情を見せる

 この山林では、100年かけて9万9千本の桜を植えようという「いわき万本桜プロジェクト」という大計画(これも蔡さんの立案)が進行中で、回廊美術館は、そのプロジェクトの一環として建築されました。「100年をかけて」というところに私たちが向き合うべき時の重さを感じますが、そのプロジェクト以上に美術館がとにかくヤバいんです。

 この美術館のヤバさは、「法を超えている」という点にあります。何らかの建造物ではあるのですが、山で切り取った木材とホームセンタ―で売られているような合板で、即興的且つ簡易的にしつらえられており、どこをどう見ても「建築申請」や「許認可」を経て建てられたものには見えません。遊具扱いなのかとも考えてみましたが、釘が飛び出したりしているので遊具でもなさそうです。つまりなんだかよくわからないのです。

【図5】美術館では、通常は蔡のいわきとの関わりについての写真が常設展示されている
【図6】回廊の頂上に展示された蔡の作品「龍骨」。市内の海岸で掘り起こした廃船で作られている

「蔡國強が関わった美術館」と聞くと、著名な建築家が関わっていそうにも思えますが、実際には、蔡さんのパトロンである志賀忠重さん(東北機工という地元の会社の社長)のもとに集まったボランティアの市民が作ったもの。そもそもこの土地も、志賀さんたちが山の持ち主にお願いをして確保したそうで、いわば「私有地」で勝手に好きなことしているだけなんです。それなのに、専門誌の『新建築』などで紹介されていたりするから面白い。

【図7】蔡さん(左)と志賀さん(右)。強い信頼関係で結ばれている

 建築物は、当然法律で認められた条件内で施工されなければなりません。常に法律との勝負です。言い換えれば、法律を破れば、いくらでも突き抜けた場所はできるでしょう。蔡さんや志賀さんたちは、私有地であることをいいことに、ノリで勝手に「やらかして」いるわけです。そして、やらかしちゃっているからこそ、建築家ではない市井の人たちが、本業の建築家を驚嘆させるようなモノを作れてしまう。回廊美術館に来て頂くと、反則のヤバさが随所に感じられます。

「自分たちが楽しいと思うことをやりたい」と、志賀さんはよく話します。自治体からの問い合わせや、助成金などの話も持ち込まれるようですが、「楽しいことができなくなる」とすべて断っているそうです。非常にシンプルなことですが、楽しいことをするために、>自分たちで自らコントロールできるスケールを維持しているわけです。

「営業しない」強み

 実は、私たちが運営するUDOK.も同じで、ある意味、超法規的な場所になっている。週末になると音楽好きが集まって勝手にDJブースで音楽をかけ始め、自由に踊ったりしているのですが、朝まで音楽をかけて踊っていてもなんら問題ない。「営業」しているわけではないので、風営法もクソもないというわけです(私が知らないだけで、そのうち私も逮捕されるのかもしれませんが)。

 いわき回廊美術館も、UDOK.も、「経営されていない」「営業されていない」、つまり「企業」でも「法人」でもないからこそ、法律の枷から部分的に解放されていると見ることができます。店舗や企業として「儲け」を出す必要がないので、私的な空間の中で完全に自分たちの「内輪のノリ」で運営でき、法律のグレーゾーンの中で大胆に動いていけるというわけです。

 UDOK.に関して言えば、6万円の家賃を利用者全員でシェアしているので、一人当たりの負担はひと月数千円で済みますし、皆それぞれ本業を持っているので、UDOK.で儲けを出す必要がない。だから潰れませんし(むしろ潰れても痛くも痒くもない)、貨幣経済から解放されているためか、「価値やスキルでの支払い」や「物々交換的な経済」がしばしば行われるなど、興味深い動きも出ています。

 しかし、内輪だけでカルト化しているのかというとそうでもなく、門は常に開かれており、地域の人たちと一緒に行う催しなどもあるおかげで、漏れ出すように公共性が生まれ、図らずも、いつの間にか「地域づくり」にも関与してしまっている。このあたりも、回廊美術館とUDOK.に共通することかもしれません。

 そういえば、津田大介さんがツイッターで、回廊美術館の名物である「崖の上のブランコ」に乗っている写真を投稿していましたね。冷静に考えて、あんな危険な場所に遊具であるブランコを設置していいわけがありません。私有地だからこそ、突き抜けて面白いことができるわけです。

 言うならば「私的空間でのゲリラ戦」を「地域にはみ出させる」ことで、自分たちのやりたい戦を、仲間を増やしながら仕掛けていけるということでしょうか。もはや、既存の「公的空間での正規戦」だけでは、福島の抱える問題は突破できないのだと思います。

 その福島において、いわき回廊美術館が仕掛ける「法に縛られないゲリラ戦術」は、多いに参考になります。加えて、100年かけて桜を植樹しようというような時間の捉え方も。ゲリラならではの身軽さを活かし、企業や法人という形式にとらわれることなく、最小限の資金で、なおかつ持続的に、法の目をかいくぐりながら大胆に部隊を潜行させ、意表をつく戦闘を繰り返していく・・・・。そんな動きが、いわきの里山に生まれているんです。

 いわき回廊美術館。いわきの新たな名所として、ぜひお見知りおきを。

つづく

震災から七年、復興は地域の衰退を加速しただけだった──。

ゲンロン叢書|001
『新復興論』

小松理虔 著

¥2,300+税|四六判・上製|396頁|2018/9/1刊行

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1979年いわき市小名浜生まれ。ローカルアクティビスト。いわき市小名浜でオルタナティブスペース「UDOK.」を主宰しつつ、フリーランスの立場で地域の食や医療、福祉など、さまざまな分野の企画や情報発信に携わる。2018年、『新復興論』(ゲンロン)で大佛次郎論壇賞を受賞。著書に『地方を生きる』(ちくまプリマー新書)、共著に『ただ、そこにいる人たち』(現代書館)、『常磐線中心主義 ジョーバンセントリズム』(河出書房新社)、『ローカルメディアの仕事術』(学芸出版社)など。2021年3月に『新復興論 増補版』をゲンロンより刊行。 撮影:鈴木禎司

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