マウントトーキョー/ミニチュアトーキョー──オリンピック選手村代替案|浅子佳英

初出:2014年11月21日刊行『ゲンロン観光地化メルマガ #25』
【図1】

「マウントトーキョー/ミニチュアトーキョー」というのは、2020東京オリンピック選手村の代替案です。敷地は現在客船ターミナルのある晴海になります。実はこれはすでに一度展覧会で展示したことがあるものなのですが、その経験から、そもそもの前提を共有しないと伝わらないということが分かったので、ここではいきなり案の説明をするのではなく、なぜこのような提案をしたのか、という話から始めたいと思います。

【図2】ミニチュアトーキョー。タワー、公園、歩道、車、人が混ざりあう都市的な空間。

空白の都市計画

 この数十年の間、ジェイン・ジェイコブズを引き合いに出すまでもなく、多くの人々にとって、さらには建築家にとっても都市計画は嫌悪の対象でした。しかし、現実におこっているのはパーク+タワーという、それこそル・コルビュジェの時代の古いタイプの計画が繰り返し用いられるという事実です。さらに、現在はここにショッピングモールが加わり、タワーマンション+ショッピングモールというほぼ1種類の都市計画だけが繰り返されています。それは湾岸部などの都心部でも郊外でも同じで、場所による違いもありません。しかし、さすがにそれだとあまりに多様性に欠け、仮にその手法に限界がきた場合には、全てが同時に駄目になってしまうため、持続可能性ということを考えた場合には大変不安定な状態だと言えます。

 実際、現在高齢化が進む高島平団地の1985年の人口構成と2014年現在の豊洲地区の人口構成が似ているという点を理由に、急激に同じような世帯が流入した湾岸部は未来の高島平になるのではないかという懸念も一部では囁かれています。両者は都心からの距離があまりに違うため、同じようになるとは思いませんが、他にも方法はあるのではないか?というのがこの計画を始めたそもそもの動機です。

 また、機会があってこれから予定されている東京の開発を調べてみたのですが、大きな部分は湾岸部を含めた東京の南東部に集中しています。それは考えて見れば当然で、すでに都心部は開発された後であり、湾岸部はこれから開発される、ある意味ではまだ白紙の場所だからです。インフラ系だと、次世代交通のBRTがまさに晴海を通る形でほぼ決定し、さらにゆりかもめ延伸、地下鉄8号線延伸も予定されており、道路は虎ノ門ヒルズで話題にもなった環状2号線、首都高晴海線、東京港トンネルなどが今後開通し、建築物だと築地の豊洲への移転、この選手村、さらに今回仮設で作られると言われている様々な競技のための施設跡も今後の開発の対象になるでしょう。なので、今回の選手村はまだまだこれから続いていく湾岸部の都市計画のモデルにしたいという側面もあります。

 さらに、晴海は3方海に囲まれ、西には東京タワーをはじめとする従来の東京の中心部が、南にはレインボーブリッジやお台場が見えるというとてもロケーションに恵まれた場所です。オリンピックで世界から注目されることになりますし、新たな観光名所にするというのも大きなテーマのひとつになっています。

【図3】

 さて、具体的な計画ですが、敷地は一部既存の倉庫街を除くとほとんど建設物はなく、ほぼ白紙の状態です。繰り返しになりますが、この数十年は都市計画アレルギーのような状態に陥っており、参考になる計画はほとんどありませんでした。そこで、実際の都市や、この数十年大量に作られることで進化してきたショッピングモールを観察し、それを手本に、そして時には批判的に捉え、進めることにしました。まず、この10年ほどの間、住みたい街ランキングで不動の1位を誇る吉祥寺は、つぶさに観察してみると大きな特徴があることに気がつきます。駅前の商業エリアは車の通行が少なく一種の歩行者天国のような状態になっており、それがゆるやかに住宅地にまで拡がっています。この一種の歩行者天国のような状態というのが非常に重要で、中目黒の川沿い、裏原宿、代官山、丸の内など、ここ最近成功したエリアは大抵この条件を備えています。またショッピングモールが百貨店や商店街とは大きく違う特徴がこの歩行空間の充実にある。さらに吉祥寺には井の頭公園という都心部には珍しい大きな公園が駅前に存在するという特徴もあります。

 これらを踏まえ、まず敷地を3分割し、ひとつは既存の倉庫街をリノべーションしたエリアとし、残りのひとつをマウントトーキョーという人工の山がある大きな公園に、もうひとつをミニチュアトーキョーという高密度に圧縮された都市にするという、今までにない新しい街の提案としました。

マウントトーキョー

 先程も述べたようにタワーマンションとショッピングモールはセットで建てられることが多いのですが、この二つには互いに正反対の大きな特徴があります。ショッピングモールというのは内部に歩道を内包する作りになっているため、外観には窓がありません。逆にタワーマンションは出来る限りの採光と通風を確保するため、窓ばかりの建築です。そこで、せっかく並んで建っているのだからこのふたつを合体させ、窓のないショッピングモールの周囲に小さなユニットの住宅を張り巡らせて全体の形状を山型にしたものがマウントトーキョーです。さらにモールの形状も一般的なダンベル型を螺旋状に曲げながら持ち上げ、百貨店でのシャワー効果とモールの回遊性を同時に活かせるような、立体的なモールという新しいパターンのモールを提案しています。また、全体が斜面地のようなものなので、各住戸には大きなテラスがつき、さらに屋上には隣接する焼却場の熱源を利用した温水プールを併設させ、登山した後にレインボーブリッジを眺めながら山頂で温水プールに入るという、他では体験できない場所になります。レインボーブリッジ側からすると正面に山が見える形になるので、新たな観光地になることも目指しています。

ミニチュアトーキョー

 マウントトーキョーは単体の建築物の提案なのですが、ミニチュアトーキョーの方は建築物単体ではなく新しい道路や街区割りの提案です。

 ジェイコブズが開発を批判した理由のひとつは開発によって街区割りが大きくなってしまうということでした。実際に歩行者の感覚からすると、とても分かりやすい話で、コーナーが多い方がルートを複数選ぶことができるし、逆に少ないと延々と同じ通りを歩かされることになります。それになにより交差点は街の魅力のひとつです。ところが湾岸部はグリッドが都心部以上に巨大になっており、大きな部分では200m~300mという場所も少くなくありません。

 これらを踏まえ、まずミニチュアトーキョーではグリッドを60mと既存のグリッドの半分のサイズにしました。

 さらに、南に海があるという地形をいかし、最南面は低層の木造建築物を、中央にはタワーを、その間には中層の建築物をストライプ状に配置し、敷地の奥まで通風と採光を確保させつつ、それぞれの通りは長手方向としては連続したものでありながら、直交方向は変化に富んだものになります。

 さらに歩道と車動を交互に配列し、交差する部分は立体交差とすることで、車と歩行者がぶつかるのでもなく、完全に分離するのでもない新たな関係が築かれる。ここにはふたつの公園が挟まれるので立体的なストリートパークとなります。

 要は歩車分離ならぬ、歩車共存、歩車融合です。

 また、こちらは機能も単一に偏らないように、低層部分は商業施設とし、上層を住宅やオフィスに。さらに、保育園や小学校などの教育施設や文化施設を含めることも考えています。

【図4】ミニチュアトーキョー。ストリートパークの上を走る高架道路。歩道と車道が混ざりあう。
【図5】
【図6】ミニチュアトーキョー。タワーのある通りにはハイラインのような高架歩道が貫通する。
【図7】
【図8】ミニチュアトーキョー。手前の低く幅のある高架(16.5m)はストリートパーク。奥のやや狭い高架(7.5m)はハイライン型高架。
【図9】マウントトーキョー。真ん中に山があることで大きな公園は方角によって性格の違う場所になる。写真は木がたくさん植えられた森のような場所。
【図10】ミニチュアトーキョーよりマウントトーキョーを望む。都市の真ん中に現れる巨大な山。

混合と多様性

 そして、この混ぜるということと多様性を確保するというのが、この計画の最も重視している部分です。

 そもそもショッピングモールは歩行者と車を分割する技術として生まれました。しかし、未来を見据えた場合、車と人の関係は急速に変わる可能性がある。自動運転、シェアカー、スマートカーなどはどんどん普及していくでしょう。それに湾岸部は公共交通はまだまだ少ないのですが、道路はとても充実しており、車で移動するのに向いている。例えば、乗り捨てを前提にスマートフォンで最も近いポートを検索し、車に乗ってミニチュアトーキョーに行くと歩道の脇にはシェアカー優先の路上駐車場があり、そこに停めてショッピングをした後、また帰りに最も近い車を検索して乗るなんてことも2020年なら全然可能なはずです。そうすれば現在のようにわざわざ駐車場に戻ったり探し回る手間は省けます。それにもちろんスペースとしてもエネルギーとしても省力化できる。

 さらに、自動運転とセンサーを組み合わせれば、今あるガードレールや植え込みは最小限にすることができ、歩道と車道を限りなくフラットにすることで車と人は今以上に近い存在になる。

 考えて見れば、そもそもゾーニングによって機能を分割するというのが計画の大きな役割でした。しかし、現実に起こっているのは単一の機能を重視しすぎたあまりに持続性がなくなるという事態です。高島平などはまさにその例でしょう。それに働き方、暮らし方も現実にはますます多様になってきており、シェアオフィスやシェアハウスなど従来の機能で分ける事が難しいタイプの建築が今後も出てくるはずです。そして、車が最も分かりやすい例ですが、以前は機能によって切り分けなければならなかったものが、技術によって共存することが可能になりつつある。

 結論をいえば、ここでは、ショッピングモールとタワーマンション、既存の街と新たな街、歩道と車道、タワーと公園、商業と住宅やオフィス、さらに保育園や学校などの教育施設や文化施設も含めて、これらを分割するのではなく混ぜ合わせること、そしてできうる限り多様性を上げることを目標にしています。

 なぜなら、それこそが持続可能な街を実現すると考えているからです。

【図11】マウントトーキョー。都市と公園が併置される。
+ その他の記事

1972年神戸市生まれ。2007年タカバンスタジオ設立。東浩紀らと共に合同会社コンテクチュアズ設立(現ゲンロン)。2012年退社。商業空間を通した都市のリサーチとデザインで活躍。主な作品に〈Gray〉〈八戸市新美術館設計案〉(西澤徹夫との共同設計)。2009年、主な論考に「コムデ ギャルソンのインテリアデザイン」(『思想地図β』vol.1所収、コンテクチュアズ)、共著に『TOKYOインテリアツアー』など。 撮影:新津保建秀

注目記事

ピックアップ

NEWS

連載

その他

関連記事