大森望×東浩紀「ゲンロン 大森望 SF創作講座キックオフイベント」レポート|徳久倫康

初出:2016年2月12日刊行『ゲンロン観光通信 #9』

0 ごあいさつ(と満員御礼)


 メルマガではお久しぶりです。ゲンロン社員の徳久です。

 この原稿、もともとは<ゲンロン 大森望 SF創作講座>の受講生確保のため、キックオフイベントの内容をコンパクトにまとめつつ、SF創作講座の魅力を余すことなくお伝えする、という趣旨で企画・立案されました。

 しかし、Twitterなどでご覧いただいている方はご存じの通り、SF創作講座は募集開始わずか半日で定員30名をオーバーしてしまいました。なんたる大盛況。これではキックオフイベント参加者(で受講を考えていたひと)が気の毒ということで、当日会場で追加募集をしたところ、こちらでも申し込みが相次ぎ、最終的に第1期は41名の受講生を迎えることになりました。さすがに当初予定の1.4倍、これ以上の増員は難しく、その後の問い合わせをいただいても、泣く泣くお断りしている状態です。

 この記事自体取りやめでいいんじゃないかという説も持ち上がりましたが、さにあらず。SF創作講座はこの1年間のスクール運営(新芸術校&批評再生塾)のノウハウを引き継ぎ、ギャラリー参加型のシステムを導入します。このメルマガでも中谷さんの「批評再生塾ガイドブック」同様に、SF創作講座レポートを連載予定です。SF事情にかなり詳しい方にお願いする予定ですので、こちらもお楽しみに。

 受講生が投稿した作品は原則すべて公開され、みなさんの評価が講師による評定にも影響を与える(かもしれない)システムになっています。本来であれば孤独なはずの作家修行を目に見えるかたちでオープン化し、切磋琢磨してもらうことで、新たなムーブメントを作っていきます。みなさんのご協力なくして、SF創作講座の成功はありえません。ぜひご注目を。

 

1 6週間のSF合宿


 さて、ここからは本来の趣旨に戻り、キックオフイベントのレポートです。とはいえ、これを読めばSF創作講座の概要も掴める親切設計。ぱらぱら読んでみてください。

 受講申し込みの殺到は大森、東両名にとっても予想外だったようで、まずは率直に驚きが語られました。日本ではいままで同様の試みは少なく、長いスパンでSFの書き方を教えるような講座は、森下一仁さんの空想小説ワークショップなど、いくつかの前例しかありません。

 しかしSFの本場・アメリカには、より制度の整った講座があります。それが、大森さんの宣言文(http://school.genron.co.jp/sf/)にも記されている「クラリオンSFワークショップ」。1968年に始まった伝統ある講座で、出身者にはテッド・チャンやテリー・ビッスンといった有名作家がいます。

 受講生は6週間(!)の合宿に参加し、この期間は副業なども原則禁止だそうです。昼間は授業を受け、夜は創作の課題をこなし、翌日にはその作品を添削される、という繰り返しで、みっちりSFの書き方を学ぶという内容。参加費もおよそ5000ドルと、決して安くはありません。

 こういった講座ができる以前、SF作家の世界は、ファンダム(愛好家集団)に加わってコネを作らなければ参入できない伝統芸能的なものでした。それを考えると、受講申し込みさえすれば誰でも参加できるよう門戸が開かれたのはじつに画期的。とはいえ、ここまで制約の大きな講座をいきなり実現するのは難しい。ということで、社会人でも受講可能なペースとのバランスを図って生まれたのが、この<ゲンロン 大森望 SF創作講座>というわけです。実際には、毎月最大短篇1本と梗概(+アピール文)ひとつを作らねばならないので、そんなにゆるいスケジュールではないのですが。

右が大森さん、左が東。写真は東がスケジュールを解説しつつ、サイト上でSFっぽいメタリックな色調を実現するための苦労話を語っているところ。

 

2 超SF作家育成サイクル


 では、実際の流れはどうなっているのか。公式ページのなかでも目を引くこの図【図1】をもとに説明がなされました。批評再生塾に「新批評家育成サイクル」があるように、SF創作講座では「超SF作家育成サイクル」を用意しました。冗談めいたネーミングですが、この螺旋状の構造をなぞっていくことで、受講生の力がめきめきと鍛えられていく仕組みです。

【図1】これが超SF作家育成サイクルだ!

 講義は3コマに分かれています【図2】。まず1時間目は、ゲストと大森さんによる講義。各回に科目名がついており、たとえば第1回は「定義」(=SFとはなにか?)がテーマになっています。東は「SFというより、SF業界とはなにか」を語るのだと言っていましたが、果たしてどうなってしまうのか。

 2限目は、前回の授業で提示された課題に対して提出された梗概(+アピール文章)を、一気に講評していきます。対象となるのは提出された「すべて」の作品。このなかから有望なものが3つ選ばれます。選ばれた受講生は、次回講義までに原稿用紙50枚前後の短篇小説を提出します。

 3限目は、前回の授業で選ばれた梗概をもとに、実際に書かれた短篇を講評する時間です。つまり、2回前の1限で出された課題に基づく作品、ということになります。

【図2】各回の講義内容。大森さんの尽力により、豪華ゲスト講師陣が勢揃いしている。

3 アピール力を鍛える


 テーマを絞って小説を提出させるようにした背景には、東がハヤカワSFコンテストの審査員を務めてきた経験があると言います。「海底人が出てくるようなものはぜんぜんなくて、ポスト伊藤計劃みたいなものばかり!」と憤る東。SFというジャンルにはタイムトラベルや冒険ものなどさまざまな広がりがあります。得意ではない分野についても(なかば強制的に)取り組むことで、作家としての力が鍛えられるのではないか。そんな思惑から、各回テーマを定め、講師からお題を出すようなシステムが作られました。

 また、梗概とともにアピール文の提出を求めるのは、大森さんのアイデアによるものです。大森さんは多くの作家志望者を見てきたなかで、自分の書いている小説がどういうものか説明できないひとがあまりにも多かった、と言います。無名の作家がこれから作品を読んでもらい、デビューしようと思えば、自分の狙いをクリアに言語化する能力が必須です。

 自分の作品をコンパクトにアピールすることは、作品自体の魅力についてあらためて考えてみるきっかけになります。数少ない枠を掴み取るには、魅力的なアイデアに加え、それを巧みにプレゼンする力も身につけねばなりません。あくまで実践的に、必要な力が着々と蓄えられていくことになります。

 

4 受講生、登場


 続いて受講生のプロフィールが、簡単に紹介されました。上は50歳、下は13歳(!?)と広い年代にまたがっていますが、ボリュームゾーンは20代から30代、性別は男性が多かったとのこと。キャリアもさまざまで、執筆経験はないという方もいれば、新人賞の投稿常連者や、ひいてはすでにデビュー済みのセミプロもいます。

 セミプロとはだれか。もちろん受講生の情報は明かせないので、特定されるような情報は伏せて話をしていた……のですが、休憩明けには坂上秋成さんの名前がさっくりと公開され、客席から壇上に召喚されていきました。

 「東浩紀のゼロアカ道場」(http://kodansha-box.jp/zeroaka.html)で文芸批評家として登場し、2013年には『惜日のアリス』で作家デビューを果たした坂上さん。なぜ受講に踏み切ったのかと問われると、「SF的なものを身につけなければ、作家として行き詰まる」という危機感があったといいます。具体的には人工知能と人間の関係性について掘り下げるような作品を書きたい、という坂上さん。いきなりポスト伊藤計劃志向では、と突っ込まれてはいましたが、実際にはどんな作品を送り出してくるのでしょうか。

 翌月、ゲンロンカフェで大森さんと文芸アイドルの西田藍さんとの鼎談★1を控えていた坂上さん。ここでもイベントの宣伝から始まり、結局40分近くを話し倒して去っていきました……。

壇上に召喚される坂上さん(左)。はたして、プロ作家の力を見せつけることができるのか。

 

5 編集者、登場


 坂上さんに次いで客席から登壇いただいたのは、東京創元社・小浜徹也さんと早川書房・塩澤快浩さんのベテランSF編集者コンビ。業界の酸いも甘いも知り尽くしたおふたりですが、小浜さんからさっそくツッコミが入りました。SFというのは長年培われてきた共同感覚によって形成されたジャンルで、それを教えるのは難しいのではないか。また、作家自身が自作の構造を理解し、言語化することはできないのではないか。そんなに緻密に執筆している作家が、本当にいるのか。

 これに対して東は、才能ある作家は無自覚のまま傑作を作れるし、そういう作家を講座によって生み出すことは無理だと認めながら、講座で教えられるのは体系化された理論だけであり、自覚的な作家のほうが継続的に活動できる、と答えました。さらに大森さんからは、個人で試行錯誤するよりも、すでに培われた作家たちの経験を学ぶことで、より効率的に力がつくだろうという返答が。

 さらにおふたりの編集者としての仕事(編集者は読み手の立場に徹し、自分の感覚を信じて作品に向き合う)、読むべき先行作品の指針をどう作るか(古典的なベスト選集を編む必要がある)など、こちらも大いに盛り上がりました。

東京創元社・小浜さん(左)と、早川書房・塩澤さん(右)。日本SFを支えるキーパーソンだ。

 

6 作家、登場


 続いて大森さんより紹介があり、高野史緒さん(『カラマーゾフの妹』で江戸川乱歩賞受賞)、高山羽根子さん(「うどん キツネつきの」で第1回創元SF短編賞の佳作を受賞)に壇上にお上がりいただき、新人賞を受賞するまでの経緯や、時代ごとの環境の違いなどをお話いただきました。高野さんが日本ファンタジーノベル大賞からデビューした90年代なかばには、SFを学べるような場所もなければ、投稿先もなかったといいます。しかし、それから高山さんがデビューするまでの20年で、大きく状況は変わりました。SF創作講座の「50枚」という執筆枚数も、こういった変化を踏まえてのものです。

壇上に登場した現役作家のおふたり。左から高山羽根子さんと高野史緒さん

 最後には会場からの質疑応答があり、純文学で新人賞の受賞経歴を持つ受講生から、SFのマーケット規模について質問がありました。大森さんいわく、純文学とSFでは雑誌の数が違うので、純文学の方が新人の執筆機会は多いかもしれない。しかしSF作家という経歴が、純文学やほかの分野で仕事をするうえでPRポイントになることもあるし、役立つこともじゅうぶんあるだろう、とのこと。

 東はまた違った角度から、SFにはSFを愛するアクティブな読者がたくさんいるし、確固としたコミュニティがあるので、自分の作品を理解してくれるファンが生まれやすい。作家にとっては幸せな環境なのではないか、と応えました。

 期せずして、作家・編集者・受講生と、SF創作講座にかかわるそれぞれの立場のひとたちが、かわるがわる登壇することになったキックオフイベント。4月から始まる本編も、予想外の展開やハプニングが起こるに違いありません。毎回ゲスト作家の作品を予習し、講評会のニコ生を見るだけでも、1年後にはすっかりSF通(&SF創作講座通?)になっていることと思います。ぜひ最新の動向をチェックしてみてください!


★1 2月6日に開催されたイベント「なつこんpresents 【大森望のSF喫茶 #20】エヴァンゲリオン~西暦2016年 終局の続き」のこと。大森さん、坂上さん、西田藍さんに加え、途中から東浩紀も乱入するアツい展開になりました。

 

ゲンロン 大森望 SF創作講座 公式フェイスブックページ https://www.facebook.com/genronsf/

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1988年生まれ。株式会社ゲンロン取締役。早稲田大学文化構想学部に在学中、東浩紀の講義を受けた縁で、のちゲンロンに入社。社内ではいまや東に次ぐ古株になってしまった。たまにカフェで聞き手を務めたり、友の会総会でクイズ大会を企画したりしている。ゲンロンの刊行物のほか、『QUIZ JAPAN』(セブンデイズウォー)などに寄稿。2020年に始まった「日経 1問グランプリ」で審査員を務める。

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