【展覧会】梅津庸一作品集『ポリネーター』刊行記念展が銀座蔦屋書店にて4月1日(土)より開催

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webゲンロン 2023年4月1日 配信
4月1日(土)より、梅津庸一作品集『ポリネーター』刊行記念展「遅すぎた青春、版画物語(転写、自己模倣、変奏曲)」が銀座蔦屋書店にて開催されます。

4月13日(木)に発売される初の作品集『梅津庸一|ポリネーター』は、梅津さんの初期作から代表作まで、多様な媒体による表現の変遷をまとめてみることができる、初の本格的な作品集となっています。

2021年から信楽で作陶を行なってきた梅津さんは、今回はじめて版画での作品制作を行い、本展には100点以上のユニークプリントが展示されます。
本展の会期は4月19日(水)までです。4月8日(土)15時より会場にてトークイベントも開催されます。
ぜひ足をお運びください。

また、梅津さんには新刊『ゲンロン14』の表紙絵、《うさぎ、美術の良識からの逸脱》を制作いただきました。
同書には、梅津さんによるエッセイも掲載されています。こちらもあわせてご覧ください。

 



 




【本展について梅津庸一さんより】




本展は梅津庸一による版画展である。100点以上に及ぶ多種多様なユニークプリントを中心に構成される。また制作プロセスを紹介するドキュメント映像も公開される予定だ。今回の出品作品はすべて町田市の「版画工房カワラボ!」で作られた。ひょんなことからこの版画展は企画されたが僕はこれまでほとんど版画に触れたことがなかった。それにもかかわらず制作期間は1ヶ月ほどしかなく、タイトなスケジュールの中で準備は進められた。現代美術作家による版画といえば代表作のアイコンをモチーフにしたエディション作品であるのが通例だろう。しかし、本展は一般的な版画展とは一線を画している。短い期間だからといって妥協するわけにはいかなかった。
 
今日、版画は芸術の一ジャンルとして知られているが、もともとは聖書をはじめとする書物の挿絵であり世界のあり方に変革をもたらした一大メディアだった。僕自身も20代の頃エルンスト・ヘッケルによるクラゲやヒトデ、有孔虫などが収められた『自然の芸術形態』に魅了され影響を受けた。また現在、日本において版画を考えるうえで「創作版画」と「教育版画運動」と昨今のアートマーケットで散見される現代美術作家による版画とでは意味合いや文脈が異なる。僕の今回の取り組みは現代アート界で活動する作家が版画工房で手際よくエディション作品を作るようなものではなく、先行世代のいわゆる「版画家」の仕事を強く意識しその精神を内面化することを目指した。
 
銅版画家の駒井哲郎は「私の芸術」(1970年)にて次のように語っている。
「もし多様な技法を用いても作品の世界は変わらないはずだと思うのは大きな間違いであって、物質を勝手気儘に扱おうとすると、物質によって手痛い復讐を受けるのであった。技法とはそう云うものなのである。」
版画の言説は技術や物質にまつわるものが圧倒的に多い。その点は陶芸と近いものがある。つまり版画も陶芸も技術や物質に規定されがちなジャンルである。僕は高い練度を要する版画家の仕事に短期間で肉薄するために必要なのは「ロマン」しかないと結論づけた。版画も陶芸も技巧とたいへんな労力を投入して作られるが最終的には鑑賞者に「味わい」や「叙情」を喚起させるものである。つまり論理的な動機づけを超えた熱情がなければ短期間で大量の版画を仕上げるのは不可能だし、そもそもそんな非合理的な試みに意義を見出すことは難しい。それにくわえて版画特有の網膜にとりつくような「味わい」を生み出すためには版画というメディウムを一時的であれ全面的に信頼し身を預けなければならない。そこで僕は「カワラボ!」での時間を「遅すぎた青春」と位置づけ、特別な時間の中で版画世界に没頭する契機とした。それは青春の再来を夢みる40歳の男の暗い私小説的な想像力にすぎないのかもしれない。しかし、思い返してみると僕は最初からそういう作家だった。これまでずっと政治的、美学的どちらの領域にも完全には属さない仕事を追い求めてきたつもりだ。ちなみにそれは普段からV系の音楽ばかり聴いていることとも無関係ではないだろう。



 



 




制作は版画の原理を「カワラボ!」の河原さん、平川さん、今泉さんから学びながら一発本番で進められた。刷り終えた版をシンナーでクリーニングする際のインクの汚れすらも紙で刷りとり「シンナー刷版画」として計上された。もはや失敗作や試し刷りなどというものはなく、この期間に生成されたものすべて出来は問わず作品と捉えることにした。作業は朝から晩まで続き時には深夜にまで及んだ。途中からは「カワラボ!」に泊まり込み生活と制作は地続きになっていった。「カワラボ!」のスタッフは刷師として僕の作った版をプレス機で刷ったり、次々と新しい版の準備をしてくれたりした。そこには厳密なルールはなく版画工房の基準を満たす職人の精度の高い仕事と僕の作家然としたラフな仕事が同時進行していた。銅版画やリトグラフのほかに巨大なモノタイプやあらかじめ僕が彩色した紙の上に刷ったもの、版画に過剰に手彩色を施したもはや「1点もの」のドローイングのようなものも作られた。また、作品集に掲載された過去作を銅板に写真製版したり、デジタルデータをプリントして手彩色が重ねられたりと、前近代的な技術とわりと最近の技術が「作家と工人」の関係性、もしくは友達同士のようなフランクなやりとりを通して複雑にまじり合い積み上がっていった。それは作品におけるオリジナルと複製の関係や、作者のアウラの有無をめぐる試行錯誤だった。言いかえれば作家における「固有性」とはなんなのか?また「つくる」とはいったいなんなのか?という素朴だが根本的な問いでもあった。
文芸的な感受性に根ざした版画の「味わい」の探求、多様性の名のもとに定義することが困難になってしまった現代美術というフレームの中でそもそも僕の取り組みは帰属する場所がないのかもしれないという不安、そしてアートマーケットと出版社の力学、さまざまな項が未整理のまま散らばった状態で本展は組織されていった。当初想定していた版画家然とした仕事ができたかと問われたらあやしいところだが、「カワラボ!」での「遅すぎた青春」はかけがえのない時間だった。
 
本展はまさに内なる自分の転写であると言えるだろう。制作を通して美術家を特徴づける主題や作風は自己模倣と紙一重であり、作家が作品制作を持続させる上で一種の鈍感さや不誠実さは必要なのかもしれないという気づきもあった。そして版画とは青春を複製する技術でもあるのだ。
 

梅津庸一




【書籍情報】




201612
梅津庸⼀作品集『ポリネーター』
発行:カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社
発売:美術出版社、定価:6,000 円+税
発売⽇:2023年4⽉13⽇(木)
仕様:184ページ、 A4 変形、上製本(スイス装)
ISBN:978-4-568-10561-2 C3070
Amazon商品ページはこちら



 

【展覧会概要】





梅津庸一作品集『ポリネーター』刊行記念展
「遅すぎた青春、版画物語(転写、自己模倣、変奏曲)」



会期|2023年4月1日(土)〜4月19日(水)
※終了⽇は変更になる場合があります。
時間|11:00~20:00
会場|銀座 蔦屋書店 GINZA ATRIUM(イベントスペース)
主催|銀座 蔦屋書店
協力|艸居、Kawara Printmaking Laboratory Inc.、安藤祐美、みそにこみおでん、シエニーチュアン、阿部宏史、美術出版社
お問い合わせ|03-3575-7755(営業時間内) / info.ginza@ccc.co.jp
URL|https://ginza6.tokyo/news/155785

会場アクセス|
〒104-0061 東京都中央区銀座6丁目10-1 GINZA SIX 6F 蔦屋書店 銀座
銀座線・丸ノ内線・日比谷線「銀座駅」A3出口 徒歩2分
日比谷線、都営地下鉄 浅草線「東銀座駅」A1出口 徒歩3分


 

トークイベント

日時|2023年4月8日(土)15:00~16:00
会場|銀座 蔦屋書店 GINZA ATRIUM(イベントスペース)
出演|梅津庸一、刈谷悠三(デザイナー)、岩渕貞哉(『美術手帖』編集長)
料金|無料
主催|銀座 蔦屋書店
定員|30名様

トークイベントへのお申し込み等の詳細はGINZA SIXのページよりご確認ください。
 

【作家プロフィール】

梅津庸一 美術家。1982年⼭形県⽣まれ。⽇本における近代美術絵画が⽣起する地点に関⼼を抱き、⽇本の美⼤予備校や芸⼤での教育に鋭い視線を投げかけた制作、活動を⾏う。主な展覧会に、個展:「未遂の花粉」(愛知県美術館、2017年)、「 梅津庸⼀展|ポリネーター」(ワタリウム美術館、2021年)、2⼈展:「6つの壺とボトルメールが浮かぶ部屋 梅津庸⼀ + 浜名⼀憲」(⾋居アネックス、2021年)、グループ展:「恋せよ⼄⼥!パープルーム⼤学と梅津庸⼀の構想画」(ワタリウム美術館、 2017年)、「百年の編み⼿たち―流動する⽇本の近現代美術―」(東京都現代美術館、2019年)、「平成美術:うたかたと⽡礫(デブリ)1989-2019」(京都市京セラ美術館、2021年)など。著書に『ラムから マトン』(アートダイバー、2015年)。『美術⼿帖』2020年12⽉号特集「絵画の⾒かた」監修。

プレスリリース

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