ドキュメンタリー映画『マリウポリ 7日間の記録』 4/15(土)より渋谷シアター・イメージフォーラムにて公開

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webゲンロン 2023年4月11日 配信

2022年 カンヌ国際映画祭 ドキュメンタリー審査員特別賞 受賞 2022年 ヨーロッパ映画賞 ドキュメンタリー賞 受賞 マンタス・クヴェダラヴィチウス監督作品

ウクライナ侵攻から1年 戦禍の惨状をありのままに伝えるドキュメンタリー、緊急公開

リトアニア北部ビルジャイ出身の映画監督・マンタス・クヴェダラヴィチウス氏の映画『マリウポリ 7日間の記録』(2022年、原題:Mariupolis 2)が、渋谷のシアター・イメージフォーラムにて4月15日(土)より公開、その後全国で上映されます。 本作は、ロシア軍侵攻後に多数の犠牲者が出たウクライナ南部の都市マリウポリで撮影されたドキュメンタリー映画です。マンタス監督は2022年3月、撮影中に親露派に拘束され、殺害されました。享年45歳。 婚約者だった助監督が映像素材を母国リトアニアに持ち帰り、友人らが作品を完成させました。 生前監督はマリウポリについてこう語っています。
マリウポリについて、何が最も驚くべきことかわかりますか?死がそこにある時でさえ、住民は誰一人として死を恐れていませんでした。死はすでに存在し、誰も無駄な死を望んだことはなかった。人々は命がけでお互いを支え合っていました。爆撃があるにもかかわらず、外でタバコを吹かし、おしゃべりをしていました。お金は残っていないし、人生はあまりにも短く感じられ、人々は今あるものに満足し、自分の限界に挑戦していました。過去も未来も、判断も暗示も、もはや何もありませんでした。それは地獄の中の天国であり、蝶の繊細な羽がどんどん近づいてきて、生の次元で死の臭いがしていました。それは生命の鼓動でした。
ロシアのウクライナ侵攻から1年、この映画は人々の目にどのように映るのでしょうか。 本作の字幕監修を担当しているロシア文学者の上田洋子が、上映劇場で販売予定のパンフレットに寄稿しています。 また、本記事にも上田のコメントを掲載していますので、ぜひあわせてご覧ください。
© 2022 EXTIMACY FILMS, STUDIO ULJANA KIM, EASY RIDERS FILMS, TWENTY TWENTY VISION
 

【作品概要】

2022年2月24日、ロシアのウクライナ侵攻は全世界に衝撃を与えた―。1991年のウクライナ独立、そして2013年から2014年のマイダン革命に端を発し、ウクライナの東部に位置するドンバス地方では、親ロシア分離派とウクライナ系住民との紛争が絶え間なく続き今日に至っている。 そのウクライナ東部ドンバス地方のマリウポリは、ロシア軍に侵攻、包囲され、砲撃によって街は廃墟と化した。眩しい日差しの下、人っ子一人見当たらない瓦礫の街の風景は、人類すべてが滅亡してしまったかのようだ。夕暮れ時、建物の割れた窓から見える地平線には炎と噴煙が立ち昇り、連射される曳光弾の光跡と共に雷鳴のような砲撃音が轟いている―。
リトアニア出身で、人類学者からドキュメンタリー監督に転身したマンタス・クヴェダラヴィチウス監督は、2016年にすでにマウリポリを訪れ、同地の人々の日々の営みを記録した『Mariupolis』(日本未公開)を発表し、高い評価を得ていた。本作はその続編ともいうべき作品である。クヴェダラヴィチウス監督は、侵攻間もない3月に現地入りし、破壊を免れた教会に避難している数十人の市民らと生活を共にしながら撮影を開始。カメラに収められたのは、死と隣り合わせの悲惨な状況下でも、普通におしゃべりを交わし、助け合い、祈り、料理をし、タバコを吹かし、また次の朝を待つ住民たちの姿だった。
© 2022 EXTIMACY FILMS, STUDIO ULJANA KIM, EASY RIDERS FILMS, TWENTY TWENTY VISION
だが、現地入りし、取材開始から数日後の3月30日、クヴェダラヴィチウス監督は同地の親ロシア分離派に拘束され、殺害された。助監督だった監督のフィアンセによって撮影済み素材は確保され、遺体とともに帰国。クヴェダラヴィチウス監督の遺志を継ぎ、製作チームが完成させた作品は、直ちに5月の第75回カンヌ国際映画祭で特別上映され、ドキュメンタリー審査員特別賞を受賞。2022年末にはヨーロッパ映画賞・ドキュメンタリー賞を受賞した。
『マリウポリ 7日間の記録』は、私情も感傷も交えず記録に徹し、戦禍の惨状で生きる人々の日常と、廃墟に流れていた時間をリアルに追体験させるドキュメンタリー。ここには激しい戦闘の様子や刺激的な映像は一切ない。ただ戦争という理不尽な悲劇に見舞われた人々の営みがありのままに映し出されているだけだ。ニュース報道からは伝わってこない、真のマリウポリの現状がこの作品に記録されている。
今、それを観る我々は、いったい何を感じ、何を想うだろうか。
© 2022 EXTIMACY FILMS, STUDIO ULJANA KIM, EASY RIDERS FILMS, TWENTY TWENTY VISION

 

【上田洋子より作品に寄せて】

 現在進行形の戦争が語られるいま、その言葉のかなりの部分が勝敗や善悪、正義を問題にしているように思います。いきなり爆撃・砲撃・銃撃を受け、占領されて、日常の暮らしを奪われた人々のことが語られることは意外と少ない。攻撃を受けた非日常の話はされても、その後も続く日常を、とくに継続的なかたちで伝えるような報道は多くはありません。おそらく、ジャーナリストはなかなか現場にいることができなかったり、当事者たちはそれどころではなかったりするのでしょう。
 戦争の日常にはさまざまなレベルがある。兵士の日常もあれば、武器を持たない一般市民の日常もある。もちろん、戦地から離れた人々や、指導者たちの日常もある。この映画では、一般市民がいかに戦争を生きているのか、彼らの暮らしていた街が変わり果てていくこととどのように対峙しているのか、突然押しかけてきた戦争を受け入れるしかない人々の生(なま)の姿が映されています。7日間の避難所生活の記録。クヴェダラヴィチウス監督がその直後に命を落としたという事実とともに、戦争とはなにかを考える際に、当たり前だけれども見えなくなりがちな、小さな人々の日常、命、そして死という視点に立ち返らせてくれます。

【予告編】

 
【作品情報】

『マリウポリ 7日間の記録』 Mariupolis 2
カンヌ国際映画祭 ドキュメンタリー審査員特別賞
ヨーロッパ映画賞 ドキュメンタリー賞


4/15(土)よりシアター・イメージフォーラムにて公開
その他、全国順次ロードショー


監督:マンタス・クヴェダラヴィチウス
製作:マンタス・クヴェダラヴィチウス
   ウジャナ・キム
   ナディア・トリンチェフ
   オマール・エルカディ
   タナシス・カラタノス
   マーティン・ハンペル
撮影監督:マンタス・クヴェダラヴィチウス
編集:ドゥニア・シチョフ
助監督:ハンナ・ビロブロワ
音響編集:ラマ・エイド
     ラナ・サワヤ
     シェリフ・アラム
整音:ロブ・ウォーカー(AMPS)

2022年/リトアニア=フランス=ドイツ合作/ロシア語/カラー/ヴィスタサイズ/5.1ch/上映時間:112分
日本語字幕:松下則子
字幕監修:上田洋子

ⓒ 2022 EXTIMACY FILMS, STUDIO ULJANA KIM, EASY RIDERS FILMS, TWENTY TWENTY VISION

後援:リトアニア共和国大使館
配給:オデッサ・エンタテインメント TOMORROW Films.
配給協力:アーク・フィルムズ


公式サイト:https://www.odessa-e.co.jp/mariupoli7days/

 

© 2022 EXTIMACY FILMS, STUDIO ULJANA KIM, EASY RIDERS FILMS, TWENTY TWENTY VISION

 

【監督プロフィール】

 

 
Mantas Kvedaravičius マンタス・クヴェダラヴィチウス 1976年6月23日 - 2022年3月30日
リトアニア北部ビルジャイ出身。ヴィリニュス大学歴史学部を卒業。専攻は考古学。2001年から2003年にかけてはニューヨーク市立大学大学院センターの文化人類学博士課程に入学し、2007年にはオックスフォード大学を卒業して社会文化人類学の修士号を取得。2013年にはケンブリッジ大学から社会人類学の博士号を取得した。マルチリンガルであり、母国語のリトアニア語の他、英語、ロシア語、スペイン語、ギリシャ語を話す。人類学者から映画監督に転身したクヴェダラヴィチウスは、類まれなヒューマニズムと映像センスで紛争地帯の空気を伝えてきた。 フィンランドとリトアニアの合作で、アキ・カウリスマキがプロデューサーを務めた『Barzakh』(2011年)でドキュメンタリー監督デビューを果たし、ベルリン映画祭ほか各賞を受賞した。2022年3月30日、ウクライナ、マウリポリで死去。

プレスリリース

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