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【 #ゲンロン友の声】哲学と経営の関係

 哲学的な思索と、日々の(お金を稼ぐという意味での)仕事との関係について教えてください。
 東さんは思想家としてものを考えて/書いていると同時に、ゲンロンという会社を運営する経営者でもありますが、これら2つの役割がお互いに与える影響はありますでしょうか。ルソーの思想を現代にアップデートしようとする東さんと、ゲンロンの収支について算盤を弾く東さんとは、どの程度同じでどの程度違う人間なのでしょうか。お聞かせ頂けますと幸いです。
 よろしくお願いいたします。(20代男性, 友の会会員)

 両者は、むろんまったく同じ人間です(笑)。そして当然、たがいに影響を与え合っている。そもそもぼくは、もしゲンロンという会社をやっていなかったら、もう哲学はやっていないと思います。哲学とはなにか。ぼくにとって、それは現実世界で生きることと切り離せないものです。現実世界はさまざまな不合理に満ちている。嫌なことや醜いことがたくさんある。けれどそのなかにすばらしいことや美しいこともある。人間にはそういう二面性がある。その二面性について考えるのが哲学であって(あるいは批評や文学であって)、だからその営みは、俗世間のなかで生き、「算盤を弾」いていなければ、やってもまったく意味がないものです。これはけっして抽象的な話ではなく、『一般意志2・0』や『ゲンロン0』で、ぼくはルソーを含めさまざまな哲学的古典を読み替えていますが、その読み替えの根拠は最終的にはぼくの現実の人生、「算盤を弾」くなかで得たさまざまな経験にある。それがなければ、テクストの読み替えは学者の遊びにすぎなくなります。実際にこの半世紀ほどの多くの「哲学者」は、そうやって一般読者の信用を失っていったのだと思います。哲学は科学とは異なります。哲学者の発言にはなにも科学的な根拠がない。エビデンスがない。だからこそ、哲学者は、現実に触れるために意図的な努力をしなければいけないのです。ぼくにとってはゲンロンの経営がそれです。(東浩紀)
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1971年東京生まれ。批評家・作家。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。株式会社ゲンロン創業者。専門は哲学、表象文化論、情報社会論。著書に『存在論的、郵便的』(新潮社、第21回サントリー学芸賞 思想・歴史部門)、『動物化するポストモダン』(講談社現代新書)、『クォンタム・ファミリーズ』(新潮社、第23回三島由紀夫賞)、『一般意志2.0』(講談社)、『ゲンロン0 観光客の哲学』(ゲンロン、第71回毎日出版文化賞 人文・社会部門)、『ゆるく考える』(河出書房新社)、『ゲンロン戦記』(中公新書ラクレ)、『忘却にあらがう』(朝日新聞出版)ほか多数。

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