東さんはよく『ゲンロン』にサインをされていますが、サインとは何なのでしょう。なぜ人はサイン(肉筆)を欲するのでしょうか。東さんのサインを欲する人に対し、東さんはどのような感情を抱いていますか。(匿名)
ひとがなぜサインを欲するのか。サイン会をやって自著を売りさばいている立場で言うのはまずいかもしれませんが、率直に言うとぼくもよくわかりません。とくに昨今では、ぼくのサインのみならず、ぼくの描いた下手なラムちゃんの絵などを求める読者も増え、困惑は深まる一方です。彼らはいったいなにを欲しているのか。そもそもぼくの本を読んでいるのか。いやそれ以前にぼくをだれだと思っているのか。すべてがナゾだらけですが、ひとがそれを欲するのであれば、それを提供するのがまたビジネスの基本でもある。というわけで、ぼくはまた今日もサインを書き続けるのです。(東浩紀)
1971年東京生まれ。批評家・作家。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。株式会社ゲンロン創業者。専門は哲学、表象文化論、情報社会論。著書に『存在論的、郵便的』(新潮社、第21回サントリー学芸賞 思想・歴史部門)、『動物化するポストモダン』(講談社現代新書)、『クォンタム・ファミリーズ』(新潮社、第23回三島由紀夫賞)、『一般意志2.0』(講談社)、『ゲンロン0 観光客の哲学』(ゲンロン、第71回毎日出版文化賞 人文・社会部門)、『ゆるく考える』(河出書房新社)、『ゲンロン戦記』(中公新書ラクレ)、『忘却にあらがう』(朝日新聞出版)ほか多数。