【 #ゲンロン友の声】若者に本を勧めるならどんな本を選びますか?

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 じんぶんやの企画で東さんがおすすめの本を紹介した記事を拝見しました。そこから10年以上経った今、若者に本を勧めるとしたらどんな本を選びますか。(10代、友の会会員)
「じんぶんやの企画」ってなんだろうと検索しました。これですね。いったいいつのものなのか記憶が定かではありませんが、ゼロ年代批評についての推薦本が北田暁大で止まっているところを見ると、宇野常寛デビュー以前の原稿なんでしょう。なにもかもが懐かしい……。は、ともかく、いま「若者に本を勧めるとしたらどんな本を選ぶか」とのご質問ですが、そうですね、いまならばもっと古典を選ぶでしょうね。プラトンに始まり、ルソー、カント、ドストエフスキー、ジイド、ハイデガー、カミュ、レヴィ=ストロース、ぼくはそういった古典にもけっこう影響を受けてきました。近代日本ならば、たとえば夏目漱石とか柳田国男とか丸山真男とかでしょうか。にもかかわらず、この10年以上前のリストにそれらの本がまったく入っていないのは、30代のぼくはまだまだ突っ張っていたなあ、というか「青かった」なあと思います。たぶん当時のぼくは、古典は簡単に見えて意外とむずかしい、むしろ流行の現代思想や批評のほうが入り口としては良いはずだと考えていたのでしょう。本屋さんもそういうリストのほうが喜びますしね。けれども、不惑どころか知命の声まで近づいたいまとなってみれば、そんな「身近」な思想や批評の読書経験などなんの役にもたたない、結局のところ教養として残るのは、若いころにわからないまま読んだ古典だけだという実感がひしひしとしています。まあ、そんなことを言っても若いひとは老害としか思わないだろうし、実際ぼく自身も若いころはそう反発していたし、そもそもそんなことを言ったらぼくの本こそ読まなくていいじゃないかと思うわけですが、とにかくそれがアラフィフの実感なわけです。というわけで、質問への答えとしては、とにかく古典を読んでおけ、わからなくてもいいから読んでおけ、つべこべ言わず買っておけということになるわけですが、それだけだとあまりにあまりなので少し過去の自分のリストにコメントを加えると、これ、ハイエクからネグリまでは『ゲンロン0 観光客の哲学』でけっこう触れた並びになっていて(サイモンだけちがいますが)、他方で柄谷から北田までは『ゲンロン1』から『4』まで続いた「現代日本の批評」座談会シリーズで扱った本ばかりであり、なるほどぼくなりに関心は一貫していて、この10年でそれなりに決着はつけてきたのだなと思うわけです。ただ、そのあいだに挟み込まれた3冊、ローレンス・レッシグ、アラン・ケイ、そしてグレッグ・イーガンの並びによって示されたヴィジョンらしきものだけは、いまだきちんと展開されていない。というわけで、そこは宿題として残っています。たぶんそれがいまメルマガで連載中の「触視的平面」論につながっているのだとは思いますが、さて、あれもいったいいつになったら続きが書けるのやら……。(東浩紀)

東浩紀

1971年東京生まれ。批評家・作家。東京大学大学院博士課程修了。博士(学術)。株式会社ゲンロン創業者。著書に『存在論的、郵便的』(第21回サントリー学芸賞)、『動物化するポストモダン』、『クォンタム・ファミリーズ』(第23回三島由紀夫賞)、『一般意志2.0』、『弱いつながり』(紀伊國屋じんぶん大賞2015)、『観光客の哲学』(第71回毎日出版文化賞)、『ゲンロン戦記』、『訂正可能性の哲学』、『訂正する力』など。
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