改憲派の東さんに質問です。私もどちらかといえば改憲派で、現実や時代に則した憲法が必要だと考えています。しかし自民党の改憲草案は所々に明治憲法を思わせるような内容が含まれています。安倍政権の最後の三年間で改憲が現実味を帯びても、今の野党は心もとなく国民の関心も低いなか、まともな改憲論議ができる状況が来るとは思えません。そこで質問ですが東さんは安倍政権下での改憲に賛成なのでしょうか?また「より良い憲法」を作るために不足しているものとは何でしょうか?(東京都、20代、男性、友の会会員)
質問ありがとうございます。ぼくが改憲派である理由は、近刊の『テーマパーク化する地球』でも書いたのですが、単純に9条にあります。9条はふつうに読めば軍隊をもたないと書いてある。そしてふつうに考えれば自衛隊は軍隊です。けれど専門家は9条と自衛隊は矛盾しないのだと専門家にしかわからない理屈をいう。むろん、護憲派の人々はそういう理屈をつくることで平和を守りたいのでしょうが、結果的に起きているのは国民がどんどん憲法について自分の頭で考えなくなっていくという状況だと思います。ぼくはそういうのはよくないと思うので、改憲したほうがいいと思うわけです。さて、で、そのうえで回答ですが、安倍政権下での改憲に賛成か否か、これへの答えは当然のことながら、安倍政権が(あるいはそれを引き継いだ次の政権が)提出する改憲案に賛成か否かに依存します。要は是々非々です。ぼくは安倍政権にはいろいろと批判的ですが、安倍政権がやることはすべて拒否だという立場はとりません。そのような「全面否定」はむしろ政権の頑なで強権的な態度を強くするだけだと思います。そして最後に、「より良い憲法」を作るために不足しているものとは何か、つまり必要なものとは何かという問いへの回答ですが、それはぼくはシンプルに、「国民が読んで素直にわかる憲法を作るという態度」だと思います。今後どのような改憲が行われるとしても、そこでもまた「憲法にはこう書いてあるけど、それはあくまでも建前で、ほんとうはこれこれの事情でなんとか」みたいな「大人の事情」的な態度が残るのであれば、改憲には意味がないと思います。政権は憲法に書いてあることを守る。国民はそれを監視する。そのために憲法は国民の常識でわかる日本語で書かれる。この原則を徹底しなければなりません。裏返していえば、自衛隊の必要性を認めるなら、軍隊をもつと堂々と憲法に書くべきです。同性婚の必要性を認めるなら、婚姻は性によらず可能だと堂々と書くべきです。いまの日本国憲法でなんでもできるのだ、という護憲派の一部の態度は、憲法解釈の権利を一部専門家で独占するものであって、むしろ国民と憲法の距離をどんどん大きくする反立憲主義的な態度だと考えています。(東浩紀)
1971年東京生まれ。批評家・作家。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。株式会社ゲンロン創業者。専門は哲学、表象文化論、情報社会論。著書に『存在論的、郵便的』(新潮社、第21回サントリー学芸賞 思想・歴史部門)、『動物化するポストモダン』(講談社現代新書)、『クォンタム・ファミリーズ』(新潮社、第23回三島由紀夫賞)、『一般意志2.0』(講談社)、『ゲンロン0 観光客の哲学』(ゲンロン、第71回毎日出版文化賞 人文・社会部門)、『ゆるく考える』(河出書房新社)、『ゲンロン戦記』(中公新書ラクレ)、『忘却にあらがう』(朝日新聞出版)ほか多数。