【 #ゲンロン友の声】人類より賢い生物がいた場合、人類はどうなるでしょうか?

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 思考実験として、人類より賢い生物がいた場合、人類はどうなっていたと思いますか? その生物に人類は滅ぼされてしまうのか、神という概念はどうなっていたのか。東さんに聞くことではないかもしれませんが、あまり詳しく書かれているところがなかったので、ここで質問させていただきました。お答えいただけると嬉しいです。「ゆるく考える」買って読みました。悪と記念碑の問題が面白かったです。(10代・男性・友の会非会員)
 人間を超える知性は存在するのか。存在したらそれはいかなるものか。これはぼく自身、子供のころから考えていた問題です。SF読者でしたからね。で、いろいろ考えをめぐらした結果、ぼくとしては、この問いの要はつぎのような問いに集約すると考えています。知性とは0か1かのものなのか、それとも段階的なものなのか。前者だとしたら、人類は知性を獲得した、それでOKです。今後ほかの地球外知的生命体に出会ったとしても、おたがいいろいろ文化的な違いはあるよね、でもやっぱり同じ知性体だよねで話は済む。人間と動物を言語の有無で峻別する20世紀の人文科学は、こっちの発想だといえるかもしれません。知性とは人間性のことであり、したがってすべての知性体は人間の似姿としてあるはずだ、という前提。むかしのスペースオペラもそんな感じです。けれども他方、後者が正しいのだとしたら、人類は知性を獲得したけれども、それはレベル10ぐらいでしかないのかもしれず、今後レベル20に進化するのかもしれないし、あるいは今後宇宙からレベル100の知性がやってくるのかもしれない。そしてレベル30ぐらいからの(適当な数字ですよ)知性体はもはや神なんて概念は必要としないかもしれないし、それどころか倫理とか言語とか文化とかの定義そのものがラジカルに違うかもしれないので、そんな存在とはもうまともに話なんてできない可能性が高い。最近のSFはこっちのほうが多くて、IT系でもシンギュラリティとか言っているひとはこっちのイメージで知性を捉えてますね。で、このどっちが正しいのか。しょせんはレベル10の知性体であるぼくには、むろん答えがあるわけはありません。しかし、最近ぼくが思っているのは、結局のところぼくたちは人間であり、人間に生まれて人間として死ぬのだから、レベル10ならレベル10で、レベル10なりの哲学を考えるしかないし、哲学とはそういうものでしかないのではないか、ということです。かりに人間よりも賢い存在がどこかにいたとして、その存在がなにかすごいスーパー哲学を展開していたとしても、それは結局のところ人間には理解できないのだから、ぼくたちには関係ない。つまりは「賢い」という尺度を導入して話をすること、それそのものがじつは人間にとってはあまり意味がないのではないか。そんな気になってきたわけです。むろん、世界の法則を理解すること、世界を物理的に支配すること、その優越については尺度が作れます。たとえば光速度を超えたらレベル30とか。しかし考えてみれば、それは知性ではなく物理学の理解の尺度であって、それ以外に「賢さ」をつくるとして、はたしてそんな基準がありうるものなんだろうか、と思うわけです。たとえば、人類が編み出した仏陀の解脱はしょせんはレベル10で、レベル30のブッダ(AIブッダ?)はもっと「賢い解脱」ができるとか、そんなことがありうるのだろうか。ありうるとして、それはなにを意味するのか。で、長々と話しましたが、最初の質問への答えです。Q1「人類より賢い生物がいた場合、人類はどうなっていたと思いますか?」 A1「なんともならない。関係ない」。Q2「その生物に人類は滅ぼされてしまうのか」 A2「その生物が人類を滅ぼしたいと願っていて、人類が対抗できなかったら滅びる。つまりは賢いかどうかではなく、欲望と技術力の問題」。Q3「神という概念はどうなっていたのか」。A3「神の概念はあいかわらず存在していただろうけど、人類よりも技術力がある存在が近くにいた場合は、それと神は違うということにしなければならないので、いろいろイメージは変わっていたはず」。こんな答えになります。(東浩紀)

東浩紀

1971年東京生まれ。批評家・作家。東京大学大学院博士課程修了。博士(学術)。株式会社ゲンロン創業者。著書に『存在論的、郵便的』(第21回サントリー学芸賞)、『動物化するポストモダン』、『クォンタム・ファミリーズ』(第23回三島由紀夫賞)、『一般意志2.0』、『弱いつながり』(紀伊國屋じんぶん大賞2015)、『観光客の哲学』(第71回毎日出版文化賞)、『ゲンロン戦記』、『訂正可能性の哲学』、『訂正する力』など。
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