こんにちは、いつもゲンロンのメルマガでもカフェの配信でも楽しませていただいております。私はいつも東さんが友の声に答え始めるとつい質問してしまうやつです。すみません。今回の質問は、かなりしょうもない質問です。私は、新記号論をゆっくりと読んでいるのですが。いつも内容を理解できているかどうか不安になってしまい、なかなか読み進めていくことができません。以前、東さんは、ゼロアカの最初の課題として1時間以内に自分の読んだことのない本についてのレビューを書くというものを出していらっしゃったと記憶しています。そこで、東さんが、どうしても期限内に読みきれない資料を処理するときに気をつけていらっしゃることは、ありますでしょうか。それともわからなくても読み進めていけばいいものでしょうか。レベルの低い内容ですみません。ご回答いただければ幸いです。(埼玉県・30代男性・友の会会員)
読解には2種類あります。(1)わからないことをわかろうとして読む。(2)わかるところだけ読む。この2つです。むろん本当はすべての書籍について(1)をやるべきです。どんな本にも、自分の知らないこと、わからないことが書いてるはずです。それを理解してこそ人間の成長はある。とはいえ、そうは言っていられないときもあります。大きな声では言えませんが書評の締め切りが迫っているとか、カフェのイベント時間があと1時間しかないが対談相手の新著を壇上で紹介しなければならないとか、そういうときです。そのときはどうするか。これはもう(2)しかありません。徹底してわかるところだけ読む。それでもいちおう読んだとはいえる。というか、ぶっちゃけ、多くの書評なんてどうせ(2)しかしていません。というわけで、質問のような局面にぶつかったときには、そこは割り切って(とはいえ多少の罪悪感ぐらいはもっていたほうがいいと思いますが)(2)に邁進しましょう。具体的にはこうです。1見開き5秒ぐらいでただひたすら全ページをめくる。基本は「見る」だけで、キーワードが目に入ってくるのを待つ。気になったところだけは前後を読む。本全体を読んだという印象を与えるためには、これも2つのパターンがあって、ひとつは「著者はAを言った、しかし途中でBに行き、最後はCになる」というふうに「物語」として著書の展開を抑えるパターン、もうひとつは、著書のなかで自分の知識と近いところを探し出し、それについて自分の意見やコメントを加えるというやり方です。前者でいきたいならば、ページをめくりつつも、著書の継起的な展開を抑えるよう感覚を研ぎ澄ませていなければなりません(ビデオの早送りみたいなもんです)。後者で行くならば、問題のポイントがひとつだけでは説得力がないですし、さすがにキーワードだけに反応しても読んでいないことがバレバレなので、数カ所止まるところをつくり、その前後を少し時間をかけて読む必要があります。いずれにせよ、そんな感じにすれば、そうですね、たいていの新書なんて15分くらいで「いかにも読んだふう」の感想を語れるようになるのではないでしょうか。なんか自分の仕事についてヤバいネタバレを書いてしまったような気もしますが、とにかくそういうことです。ただし、最後にいっておきますが、これは「本当の読書」ではないですからね! それは誤解しないでね!(東浩紀)
1971年東京生まれ。批評家・作家。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。株式会社ゲンロン創業者。専門は哲学、表象文化論、情報社会論。著書に『存在論的、郵便的』(新潮社、第21回サントリー学芸賞 思想・歴史部門)、『動物化するポストモダン』(講談社現代新書)、『クォンタム・ファミリーズ』(新潮社、第23回三島由紀夫賞)、『一般意志2.0』(講談社)、『ゲンロン0 観光客の哲学』(ゲンロン、第71回毎日出版文化賞 人文・社会部門)、『ゆるく考える』(河出書房新社)、『ゲンロン戦記』(中公新書ラクレ)、『忘却にあらがう』(朝日新聞出版)ほか多数。