【 #ゲンロン友の声】理系における神話とは何か?

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 こんにちは いつもゲンロンカフェ、ゲンロンβを楽しませてもらっております。今回の質問は、「理系における神話とは何か。そして、その該当するものを理系の方が、一般的な古代の神話(文系における神話)を読むがごとく、文系が読むとは何に該当するのか。」です。個人的には、科学哲学又は科学哲学史が該当するかもしれないと考えたのですが、どうも間違っている気もします。例えばある研究者が理論を提唱した場合は、理系の考え方としてはその研究者の理論にフォーカスし、研究者自体の個人史に関しては言及することをしない傾向にあると思います。一方、文系の考え方は、個人史にしか興味がなく理論にフォーカスすることより如何に人物の魅力を引き立てるかに終始している気がします。どちらもお互いの分野に対して異なるアプローチを忌避していると思います。しかし、理系の方は書店に行けば死ぬほど神話や哲学について細かく説明した素材があります。でも、文系が書店に行っても啓蒙書に類するものがあるだけな気がしています。長々と申し訳ありません。(埼玉県・30代・友の会会員)
 質問ありがとうございます。ツイッターをやめたいま、もはやここでしか読者のみなさんとは直接の繋がりがないので嬉しく思います。さて、ご質問の件ですが、文系と理系の差異問題(この手の話をすると必ず湧いてくる文系理系と区分することそのものが愚かなのだ的な反論は、もはやクリシェでしかないのでとりあえず無視するとして)については、ぼくはいままであちこちで書いていて、それは要約すれば、文系は歴史に一回しか起こらないことを扱うが、理系はなんどでも反復可能なことを扱う、両者の方法論のちがいは原理的にここに起因するというのがぼくの考えです(とか書くと今度はでは生物学とかどうなのよ、進化論は歴史だぞ的な反論が来そうですが、それについても吉川浩満さんの本に絡めて書いたり語ったりしたことがあるので、気になるひとは無料の短いこのコーナーだけ読んで理解しようとするのではなく、少しはぼくの本を読んだりイベントを聞いたりしてみるとよいと思います)。で、おそらく寄せていただいた質問への答えもそこから導けそうな感じがするのですが、どうもいただいた質問「理系における神話とは何か。そして、その該当するものを理系の方が、一般的な古代の神話(文系における神話)を読むがごとく、文系が読むとは何に該当するのか」の意味がわかりません。「理系における神話とは何か」。ぼくにはわかりません。ふつうの意味では理系には神話はないと思うので、質問者の方がなにを指そうとしているのかわかりません。つぎに「その該当するものを理系の方が、一般的な古代の神話(文系における神話)を読むがごとく、文系が読むとは何に該当するのか」。この文章の意味もよくわかりません。そもそも主語がふたつある気がします。「その該当するもの」は「理系における神話」だと思うのですが、それを読むのは「理系の方」なのでしょうか「文系」なのでしょうか。というわけで、答えようにも、質問がなんだかよくわからなかったというのが正直なところです。いずれにせよ、ご指摘のように、文系は歴史に関心をもち、理系は理論に関心をもつ傾向にあります。しかし、これはどちらかが優越しているということではなく、ぼくたちの世界が「普遍的な規則に則り生起し、それゆえにそれ自体としては反復可能なはずの現象がにもかかわらず一回かぎり生成した、そんなたった一回の試行の連鎖のうえに成立するただひとつの宇宙」である以上、当然どちらも論理的に出てくるものだとぼくは考えています。ひらたくいえば、ぼくたちの世界は賽の目の連鎖でできており、だからその一回かぎりの目の連続が重要という考えかたもあれば、それはたまたまそうなっただけなんだからサイコロの形状を考えるのが大事みたいな考えかたもあるということです。だから、もしぼくたちが今後並行世界を旅する技術を手にするようになり、無限の数の可能な歴史をすべて対象にして思考ができるようになるとすれば(そんな思考が人間にできるかどうかはともかく)、そのときは必然的に文系と理系の区別もなくなることでしょう。文系と理系の区別があるのは、いまのところぼくたちが認識できる世界がただひとつだからにすぎないのです。(東浩紀)

東浩紀

1971年東京生まれ。批評家・作家。東京大学大学院博士課程修了。博士(学術)。株式会社ゲンロン創業者。著書に『存在論的、郵便的』(第21回サントリー学芸賞)、『動物化するポストモダン』、『クォンタム・ファミリーズ』(第23回三島由紀夫賞)、『一般意志2.0』、『弱いつながり』(紀伊國屋じんぶん大賞2015)、『観光客の哲学』(第71回毎日出版文化賞)、『ゲンロン戦記』、『訂正可能性の哲学』、『訂正する力』など。
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