【 #ゲンロン友の声|026 】ひとと深い関係になるとは、こんなに辛いことなのでしょうか

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webゲンロン 2022年10月14日配信
東浩紀さんに質問です。 

はじめて恋人的な関係になったひとと別れました。別れを切り出したのはぼくのほうです。 

その人は、「ぼくのことを愛したい」という理想と感情が乖離し、そのことで「申し訳ない」と病んでいました。最初は我慢していたのですが、それに耐えきれず別れを切り出しました。 

恋愛とはこんなにめんどくさくて辛いのだと思うとともに、その人に申し訳ない気持ちもあります。 

ひとと深い関係になるとは、こんなに辛いことなのでしょうか。どうせ深い関係になったとしてもこんな最後をむかえるのだとすれば、もうひとと深い関係になる気力がありません。ただひとと深い関係を構築する欲望も諦めたくもありません。今後の人生、どうすればいいでしょうか?(東京都・20代・男性・非会員)

 質問、ありがとうございます。ついにゲンロンにも恋愛相談が来るようになったかと、感慨深いです。 

 失礼。まじめな相談ですよね。というわけでまじめにお答えしますが、これは恋愛相談のように見えて、もしかして恋愛相談ではない──少なくとも、恋愛相談「だけ」ではないのではないでしょうか。 

 かりに単なる恋愛相談だという前提でお答えするとします。そうするといささか奇妙です。なぜならば、別れを切り出したのはまずは質問者さん。理由はといえば、恋人さんが悩んでいるのを見るのが辛いから。そして恋人さんが悩んでいたのは、質問者さんを愛したいという理想と感情が乖離していたから──ということはつまりは、実際には恋人さんは質問者さんを愛していないにもかかわらず愛しているふりをしていた(と、少なくとも質問者さんに見えた)、それが辛くなったという話なわけです。要は、愛を確認しないままに付き合ってしまい、それで別れたのだと。 

 だとすれば、問題は恋人さんが質問者さんに対して愛を感じていないということにつきます。もし質問者さんが関係を続けたいのだとすれば、その現実に立ち向かうしかない。つまりは愛されるように努力するしかない。恋人さんの悩みに共感している場合ではないはずです。 

 だからぼくは、もしかしたら、ここには書かれていないべつの事情があるのではないかと思いました。とはいえ、それについては想像でお答えするのも失礼です。それゆえ答えることができません。 

 いずれにせよ、質問者さんはまだ20代。質問の後段で「ひとと深い関係になるとは、こんなに辛いことなのでしょうか」と問いかけていますが、ひとと深い関係になるのはむろん辛いことです。今回は、恋人さんとの関係は不幸な結果に終わったのかもしれません。けれども人生は長く、望むと望まざるとにかかわらず、これからも深い関係はさまざまなかたちで勝手にやってくる。だから、それほど悲観的にはならなくてよいと思います。元気を出して!(東浩紀)

東浩紀

1971年東京生まれ。批評家・作家。東京大学大学院博士課程修了。博士(学術)。株式会社ゲンロン創業者。著書に『存在論的、郵便的』(第21回サントリー学芸賞)、『動物化するポストモダン』、『クォンタム・ファミリーズ』(第23回三島由紀夫賞)、『一般意志2.0』、『弱いつながり』(紀伊國屋じんぶん大賞2015)、『観光客の哲学』(第71回毎日出版文化賞)、『ゲンロン戦記』、『訂正可能性の哲学』、『訂正する力』など。
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