ゲンロンサマリーズ(11)『地方の論理』要約&レビュー|徳久倫康

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初出:2012年6月2日刊行『ゲンロンサマリーズ #5』
佐藤栄佐久+開沼博『地方の論理──フクシマから考える日本の未来』、青土社、2012年
レビュアー:徳久倫康
 
 
 
要約
3.11の教訓 ● 福島とエネルギーの関係は地方と中央の経済格差に由来し、明治期の猪苗代湖水力発電、常磐炭鉱から続いている。(開沼) ● 90年初頭の知事時代、財政上不要にもかかわらず原発増設を申し出る自治体があり、不信感を持つようになった。(佐藤) ● 現在、福島第一原発の復旧作業が地域の雇用を創出している。他の原発付近でも、廃止反対は根強い。(開沼) ● 現状維持を脱するためには、中央からは見えない地方の論理を知り、地方主体の発想に切り替えるべきだ。(開沼)
地方の論理とはなにか ● 善悪はともかく、過疎化した地域は村社会の原理で支えあっており、公平な競争はなじまない。(佐藤) ● 人口過密の東京は居住に向かない。田舎ならば生活環境もよく、子育てや女性の社会参加に適している。(佐藤) ● 道州制は州都に権限が集中するので、地方分権に繋がるかは疑問。中央省庁の管理が強化されるだけ。(佐藤)   地方主体の政治へ ● 地方が軽視されるのは、経済が停滞して余裕がなくなり、多様性や弱者がないがしろにされているから。(佐藤) ● カリスマ政治家も原発も、支持されたのは閉塞感を打破すると思われたからで、その点では同質。(開沼) ● 民主主義の原点に立ち返り、福島県民で県民の意思を確認すべきだ。(佐藤) ● 新自由主義も社会民主主義も、中央目線なのは同じ。地方の論理と価値観を取り戻そう。(開沼)
レビュー
 いわき市出身の若手社会学者・開沼博と、元福島県知事の佐藤栄佐久による対談集。対談はすべて震災以後に収録されたものである。  佐藤は1988年から18年間にわたって福島県知事を務めていたが、2006年に収賄疑惑を受けて辞任した(のちに有罪が確定)。知事時代から原子力発電所の建設やプルサーマル計画導入に対して強く反対しており、著書『知事抹殺』(平凡社)などでは、収賄事件は検察が作り上げたものだと主張している。  この二人の対談というと原発問題一辺倒と思われそうだが、焦点が当たっているのはむしろ、地方が置かれた条件と可能性についての議論である。文中、開沼はおおむね聞き役に徹しており、佐藤の政治家時代のエピソードと、その経験に裏打ちされた政治信条が語られる。  注目すべきは道州制導入に対する反対や、小泉・橋下など2000年代以降に登場したカリスマ政治家と、その支持者への批判である。一口に地方分権と言っても、その方法論や内実はさまざまなことが明確に示されており、じつに興味深い。
 
『ゲンロンサマリーズ』は2012年5月から2013年6月にかけて配信された、新刊人文書の要約&レビューマガジンです。ゲンロンショップにて、いくつかの号をまとめて収録したePub版も販売していますので、どうぞお買い求めください。
『ゲンロンサマリーズ』ePub版2012年6月号
『ゲンロンサマリーズ』Vol.1〜Vol.108全号セット

徳久倫康

1988年生まれ。早稲田大学文化構想学部卒。2021年度まで株式会社ゲンロンに在籍。『日本2.0 思想地図βvol.3』で、戦後日本の歴史をクイズ文化の変化から考察する論考「国民クイズ2.0」を発表し、反響を呼んだ。2018年、第3回『KnockOut ~競技クイズ日本一決定戦~』で優勝。
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