ゲンロンサマリーズ(12)『フリーカルチャーをつくるためのガイドブック』要約&レビュー|tokada

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初出:2012年7月13日刊行『ゲンロンサマリーズ #16』
ドミニク・チェン『フリーカルチャーをつくるためのガイドブック──クリエイティブ・コモンズによる創造の循環』、フィルムアート社、2012年
レビュアー:tokada
 
 
 
要約
「自由な文化」の価値とはなにか? ● インターネットでは、プロ・アマの区別なく画像や文章などが大量に投稿される、創造の大衆化が起きている。 ● そこでは作品はもはや、ほかの作品の素材として機能し、模倣・改変されることで価値を生み出している。 ● 創造はそもそも、次世代に継承され、予測できない価値を生む継承力(ジェネラティビティ)によって成立するものだ。 ● レッシグらの提唱するフリーカルチャーは、継承力を高める制度的な工夫によって創造的な文化を醸成することに価値を置く。
著作権をハックする ● 著作権という制度は、作者の権利を保護しすぎたために、文化の発展を阻害している側面があった。 ● フリーソフトウェアのGPLというライセンスは、改変してもGPLでの公開を義務付けるコピーレフトの戦略をとる。 ● それは再頒布や改変という著作権が禁止する事柄を、著作権を逆手にとって担保する巧妙な戦略だ。 ● 同様にフリーカルチャーも、作者が自らの作品にライセンスをつけることで、作品の再頒布や改変を許可する。 ● クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス)は、作者が目的に応じて自分の作品の利用条件を柔軟に設定できる仕組みだ。   CCライセンスの活用事例 ● Youtubeでは、CCライセンスが設定された動画をサイト上でリミックスして自分の動画を作ることができる。 ● Wikipediaのすべての記事と、Wikimedia CommonsにアーカイブされたコンテンツにはCCライセンスが与えられている。 ● MITのオープン・コースウェアは教材がCCライセンスで公開され、非営利目的なら自由に利用することができる。 ● 電子工作のためのArduinoというオープンソースハードウェアは、回路設計にCCライセンスが付されている。 ● 大手出版社のオライリーはオープン・ブックスというプロジェクトで、絶版書籍などの書籍の全文をCCライセンスで公開している。   フリーカルチャーをさらに実践するために ● 絵や楽曲にも、プログラムのソースコードに類似したデータを見出すことはでき、共有すれば創造や学習に活用できる。 ● GithubやWikipediaのように制作プロセスの履歴をオープン化することで、フリーカルチャーの歴史も自生的に構築される。 ● フリーカルチャーの評価モデルは、権威付けではなく、Googleのページランクのような自生的な参照体系によるべきだ。 ● 投げ銭や募金など、リスペクトによる代替的な経済が発展することも、フリーカルチャーが真に根付くために重要だ。
レビュー
 本書は、国際 NPO「クリエイティブ・コモンズ」の日本支部立ち上げに携わったドミニク・チェンが、フリーカルチャーの起源と方法を整理し、その社会的意義を考察すべく記した著作である。  特にCCライセンスを使って自分の創作物の二次的利用(頒布や二次創作など)を奨励したいと考えているクリエイターには、最適の一冊だろう。ケーススタディ集には豊富な事例も取り上げられており、「動画のオープンソース化」「科学のオープンソース化」「書籍のオープンソース化」とカテゴリ別に整理されているだけでなく、それぞれの事例が各種の文化をいかにオープンソース化し得たのかが、具体的な手順をもって示されている。「ガイドブック」と掲げられたタイトルのとおり、あくまでも実用的な本であろうとする著者の配慮は、本書の隅々から感じとることができる。  しかしそればかりではない。本書は、「なぜフリーカルチャーなのか?」という疑問をもつ一般読者や権利者にこそ読まれるべき思想書でもある。行間に窺われる著者の深い教養と高度な技術リテラシーは、フリーカルチャーの意義を語る議論の説得力を十分に高めるのみならず、〈創造性とは他者の創造を模倣し改変すること、すなわち学習である〉という著者独自の思想へとまっすぐ繫がっている。インターネット社会の隆盛によって開かれた文化が次々と実装され、著作権の既得権益が揺らいでいる現代において、本書は「文化の指針書」としての役割を果たしてくれるはずだ。

 

 
『ゲンロンサマリーズ』は2012年5月から2013年6月にかけて配信された、新刊人文書の要約&レビューマガジンです。ゲンロンショップにて、いくつかの号をまとめて収録したePub版も販売していますので、どうぞお買い求めください。
『ゲンロンサマリーズ』ePub版2012年7月号
『ゲンロンサマリーズ』Vol.1〜Vol.108全号セット

tokada

1980年生まれ。IT系企業勤務のエンジニア。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。学生時代に国際大学GLOCOMの東浩紀研究室が運営するised@glocomの編集業務に携わって以来、東浩紀のゼロアカ道場や思想地図などの、東浩紀界隈のウォッチャーとして活動するようになる。週末思想研究会(通称「週末研」)メンバー。
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